「市民ランナーの星」という愛称がすっかり定着した。目をらんらんと光らせ、遠慮のない“舌戦"も得意とするマラソンの川内(埼玉県庁)から、ことしも目が離せそうにない。

2大会連続での世界選手権出場を懸けて挑んだ昨年12月2日の代表選考レース、福岡国際マラソン。日本陸連が改めた代表内定条件は、2時間8分を切って日本人トップとなることだ。大会前の有力選手による記者会見では「(従来の日本陸連の派遣設定タイムの)2時間9分30秒が不満だった。7分台を出すことを目標にしてきた。その規定になりすごくうれしく思う」と堂々と言い切った。さらに、ライバル視するロンドン五輪代表のプロランナー、藤原新(ミキハウス)に対し「負けるつもりはない。(これまで)何度か(一緒に)練習する中では、それほど上のレベルではないと感じた。いい戦いができれば」と猛烈な闘争心をのぞかせた。

迎えた大会当日。ふたを開けてみれば28キロすぎで早々と先頭集団から後れを取って2時間10分29秒の6位に沈み、藤原の4位も上回ることができなかった。神妙な面持ちで「悔しい。急についていけなくなり、気持ちも持ち直せなかった。単純に力不足」と潔く敗戦を認めた。個人練習で高い意識を保つのが難しくなっていることも明かし、足早に競技場を後にする姿に少し寂しさを感じさせた。

それからわずか2週間後の16日、2012年最後のレースとなる防府読売マラソンに出場した。世界選手権の代表選考レースではないためか、プレッシャーを感じる様子もなく、前日の懇親会などで出場選手らと和やかに談笑する姿があった。結果は、この年9度目のレースにして5度目の優勝。スタート時と比べ、ゴールに近づくにつれて走りのリズムも見違えるほどに良くなった。ゴール後は「やってきたことが間違ってないと言える。安定感が増してきた」と自信を深めた様子で話し、さらに「耐性が付いた」と、にんまり。そういえば、レース後に倒れて医務室に運ばれる姿は、もうない。

ことしは、世界選手権代表選考レースとなる3月のびわ湖毎日マラソンで好結果を出すことが当面の目標になる。ハーフマラソンなどを含め、これまで通り頻繁にレースに出て鍛える練習方法を貫く意向だ。そんな中、日本陸連の関係者から気になる言葉を耳にした。「調整してプレッシャーのもとでやったらどうなるか」。企業の名前を背負って走る実業団選手にあって、川内にはないものと言える。低迷気味だった実業団選手への“ショック療法"としても存在感を示してきた川内に対する、新たにかけられた期待とも、ハッパともとらえることができる。新年最初のマラソンとなったエジプト国際で優勝し、幸先のいいスタートを切った男の1年は、果たしていかに?

米澤万尋(よねざわ・まひろ)2008年共同通信入社。大阪支社運動部を経て、10年から福岡支社勤務。主にアマチュア野球やサッカー、陸上などを担当。仙台市出身。