柔道の場合、日本代表レベルの選手はその多くが幼少期に柔道を始める。例えば昨年のロンドン五輪男子代表7人のうち、全員が6歳までに道場に通い始めている。

今夏の世界選手権代表候補の一人、昨年の講道館杯100キロ級で優勝した24歳の熊代佑輔(ALSOK)はそうした典型から少し外れている。幼稚園から中学卒業まで地元・栃木県内のクラブチームでプレーしていた元サッカー少年で、柔道を本格的に始めたのは高校生になってからと、柔道選手ではかなり遅めのデビューを果たしたからである。

逆に言うとそれまでサッカー一筋だったのに、なぜ柔道を?

「中学3年の夏にサッカーを引退したら、40キロ近く太っちゃって120キロになったんです(笑)。それで、高校ではとてもサッカーできるような身体ではなくなってしまい、それなら柔道だということになったんです。中学時代は柔道部に籍を置いていて、少し経験はありました。といっても、『やっていました』と言えるほどではなかったですが」

体重増が理由とは、とてもポジティブとは言い難いが、ともあれ、高校でのこの選択が熊代の人生を変えたことになる。高校ではすぐに頭角を現し、3年時のインターハイでは100キロ級で3位に入賞。そして東海大卒業後2年目の昨年には講道館杯同級で優勝。リオデジャネイロ五輪代表を狙う位置につけた。本格的に柔道を始めてわずか9年あまり。飛躍的な成長と言っていいだろう。

「もともと考えるのが大好きで、いつでもどこでも柔道のことを考えているんです。柔道歴が短くて経験がない分は、この考えることで補っているような気がします」

そして、こう言葉をつなぐ。「柔道歴が短いから、幼いころに植え付けられたものがないのがいいのかな、とも思います。先入観なく何でもやってみようと思えるから」

熊代の柔道の特徴はパワーにある。外国人の強烈な圧力にも負けない身体の力の強さは、サッカーで鍛えた強靱な足腰のおかげだ。幼いころからその道一筋でなくとも、こうした強みを生かせばトップレベルには到達でき得る。このことを、身をもって証明している熊代は、遅めのスタートを切った人をおおいに勇気づける存在だ。(スポーツライター・佐藤温夏)