大したもんだなあ。にこにこ笑って投げる彼を見ていて、単純だがそう思っていた。プロ野球のソフトバンクで、高卒1年目で8勝を挙げた武田翔太投手のことである。宮崎日大高時代から「九州のダルビッシュ」と称された大型右腕。150キロを超える速球に多種多様な変化球は多くの強打者をうならせた。ヒーローインタビューでは「笑う門には福来たる」なんて言ったりもした。人懐っこいスマイルと評判通りの投球。二つの武器であっという間に博多のファンを虜(とりこ)にした。

一方で図太さというか、物怖じしない性格には驚かされた。入寮の際も子どもの時からの夢は「大リーガー」と言ったという。契約更改では金額が思ったより低ければ納得はしていないと本音を隠さずに言う。整体院に通うために、今は認められていない自動車の運転も「すべては自分の責任」と訴えた。わずか19歳。年齢は関係ないかもしれないが、ルーキーがプロの世界ではっきりと主張するのは簡単じゃない。比べるのも失礼だが、私が大学生の時なんて将来のことなんか何も考えていなかった。球団の関係者も自己投資への意識の高さに、舌を巻いていた。

同じく笑顔が人気という選手の話を、違った競技でも聞いた。韓国の釜山でゴルフを取材した際、米女子ツアーの有力韓国選手の関係者が宮里藍選手について熱く語ってくれた。「藍の笑顔は素晴らしいし、態度は本当に賞賛されるものだ。藍の言うことは、いつだってみんな支持するよ」。選手間投票で決まる模範的な選手に贈られる「ウィリアム&モージー・パウエル賞」を日本人で初めて受賞。プレーヤーから尊敬を集めている証拠といえる。私自身彼女を直接取材したことはないが、何だか誇らしくなった。魅力的な笑顔同様に人間性も高く評価されているのだろう。

スポーツ選手が放つメッセージは社会的にも影響力は強い。そのことを自覚してしっかりとした態度を示す。卓越した技術を持っていてもそういった内面的な強さを持ち合わせた選手に出会える機会はなかなか少ない。にっこり笑ってしっかり行動を。何かと先行きが不透明な時代。老若男女を問わず、注目を集めるアスリートには、ちょっとやそっとじゃぶれない芯の強さを見せて欲しい。2012年の年の暮れ。衆院選の開票速報で、笑顔で万歳をする政治家の方々を見ながらそんな願いを抱いた。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)1984年生まれ、岐阜県各務原市出身。東京外大ではカンボジア語専攻。2008年入社。ボクシングなどの担当を経て2010年からプロ野球ソフトバンクを中心に取材。

☆お知らせ

年内は本稿で終了し来年1月16日付から再開します。