友人のレーシングドライバーたちと夕食を共にしたときF1最終戦の話題になった。「それにしてもスタート直後は驚いたね。ハーフスピンでマシンが反対を向いた時、もうフェテルは終わったと思ったら、後続車が誰も接触することなくかわしていった。最後尾から追い上げたフェテルも凄かったけど、見事にかわしていった後続車たちを見て、やっぱりF1は違うと思ったよ」とその場にいる全員が感心していた。僕のような素人ではなく、日本トップを争うドライバーたちが、そう語るほど、最終戦は波乱の連続で、チームスタッフはもちろんのこと、テレビを観ているファンにとっても“手に汗握る"展開だったことは間違いない。

レッドブルのセバスチャン・フェテルと、フェラーリのフェルナンド・アロンソだけが王者の可能性を残していた最終戦。13ポイント差があったが、もしリタイアやトラブルで入賞圏外に落ちれば、簡単に逆転可能な状態だった。そしてスタート直後に、フェテルはブルーノ・セナに接触される形でハーフスピン、誰もが「終わったな」と感じた最悪の状況に追い込まれた。唯一の幸運は後続車から接触されることはなく、マシンのダメージが最小限だったこと。そして24位の最後尾から6位入賞まで、18台をオーバーテイクして自らの力で3連覇をもぎ取ったのだ。

レース後、ドイツ語メディアに「ここ数戦、自分の思い通りにならないレース展開に腹を立ててばかりだったけど、今日は腹を立てる暇がないほど忙しかった。間違いなく僕の人生においってもっともタフなレースだったよ」と笑顔で語った。前のマシンを抜くことだけに全神経を集中していたフェテルが、自分の持つすべてを引き出したレースだった。

過去に3度以上のワールドチャンピオン経験者はアイルトン・セナやアラン・プロストなど9人いるが、3連覇を成し遂げたのは、1950年代に活躍したファン・マニュエル・ファンジオとミヒャエル・シューマッハーしかいない。これまで、ポールポジション、初優勝、初表彰台と数々の史上最年少記録を塗り替えてきたフェテル。過去に誰もが破ることはできないと言われたファンジオの記録をシューマッハーが破ったように、フェテルは“憧れの存在"と公言するシューマッハーが持つ、数々の記録を打ち破るスタート地点についたと言えるだろう。(モータージャーナリスト・田口浩次)