Jリーグに所属するチームが参加するなかで、最も緊迫感のあるトーナメント。その心の内は、ある意味で冬の高校選手権に臨む選手たちに共通するのではないだろうか。サッカーを生活の生業とするプロ選手にとって、間断なく続く試合をこなすという行為は、もしかしてある種のマンネリ化を生む可能性はある。そのなかで天皇杯やナビスコカップのカップファイナルは、たとえ敗れたとしても準優勝の名誉と賞金がついてくる。この二つのカップ戦とは趣を異にするのが、今シーズンから新設されたJ1昇格プレーオフだ。

J2リーグのレギュラーシーズンで3位から6位のチームが争った全3試合のトーナメント。「日本一残酷な、歓喜の一戦」と銘打った4チームによる争いは、最終的に勝ち残った者だけにしか褒美は与えられない。敗者には何も残らないというプレッシャーを考えると、プロになった選手たちが、純粋に勝利だけを目指して突き進んだ、高校時代のような気持ちに立ち帰ったのではないだろうか。

大分が千葉を1-0で下して4年ぶりのJ1復帰を果たした11月23日から1週間。リーグ戦のあり方や、プロとしての興行のあり方などを自分なりにいろいろと考えた。しかし、なぜかしっくりとこない。年間を通して各チームが42試合の長丁場を戦い抜いたリーグ戦の結末が、このような形で締めくくられて、本当によかったのだろうか。もちろんシーズン前に、各チームに対して平等に定められたレギュレーションのなかでの結果なので、大分の昇格にケチをつける気持ちは毛頭ない。むしろリーグでは上位の京都、千葉を次々と破った大分のイレブンと田坂和昭監督のゲームプランには「一発勝負は、こうやって勝つんだ」と教えられたような気がした。劣勢を予想されながらも、結果を出すという意味では、2010年南アフリカワールドカップを戦った、岡田武史監督率いる日本代表にも共通する田坂采配。他クラブから放出された選手の多い大分の選手構成を考えると、大分の地元では田坂監督はまさに英雄だろう。

それでもなお釈然としないのは、おそらく人それぞれが持つリーグ戦に対する考え方の違いがある。本来、地道に勝ち点を重ねることで順位を争うのがリーグ戦の醍醐味だと思っている人間としては、今シーズンのJ2の終わり方を見ると、あるもののバランスがとれていなかったと違和感を覚える。そのあるものとは、「喜び」と「失望」を比べた場合の質量の差だ。結末がリーグとは性格が真逆の、トーナメントであったからというのが一番の要因だが、今回のプレーオフ3試合の結果を見ると、そのすべてが下位のチームが勝利を収めている。準決勝ではリーグ3位の京都が6位の大分に敗れ、4位の横浜FCが千葉に大敗した。さらに決勝も下位の大分が制した。

自動昇格した2位の湘南にわずか勝ち点1差のリーグ3位。リーグ全42試合で得られる総勝ち点126ポイントのうち、得失点差の関係もあり2ポイント届かずにJ1昇格を逃した京都。彼らの失望感を埋めるだけの質量を持った喜びが、はたして6位の大分にあったのだろうか。これはあくまでも想像だが、大分とすれば負けて元々の状況からのチャレンジであっただけに、同等のものがあったとは思えない。京都の失望と、大分の喜びの間には大きなギャップがあったのではないだろうか。一番不利な立場にいた大分が、一番有利な立場にいた京都、さらに千葉を破ったことで「下克上」の言葉が飛び交っていた。しかし、アップセットはトーナメントで起こるから楽しいのであって、リーグ戦の本質を考えたときには、個人的にはあまり歓迎できるものではない。

今大会のプレーオフに設けられたルール、「引き分けならリーグ上位の勝利」というアドバンテージも結果的には、何の意味も持たなかった。そもそもトルシエ元日本代表監督は「日本人には引き分けの文化がない」と言い切っていたぐらい。引き分けは狙ってできるものではない。両チームが談合でもしない限り、そう簡単なことではないのだ。確かに注目度という点では、今回のJ2プレーオフは田坂監督が会見で「2位の湘南より目立って悪かった」と発言したように盛り上がりを見せた。また昇格争いが最終節まで団子状態だったこともあり、リーグ終盤の観客動員数は3割増しになったという。普段メディアに取り上げられる機会の少ないJ2のクラブとしては、経営面も含めこれは歓迎すべきことだろう。しかしながら、純粋に競技力で考えたときに疑問も生じる。J2の6位のチームが、果たして来シーズンのJ1で戦えるのかと。

いたずらに競技力で劣るチームをJ1に送り込み、1シーズンでJ2に逆戻りなどという事態も、このシステムでは増えるだろう。さらにJ1に昇格することで放出される選手やスタッフ、逆にJ2の3位でプレーオフに敗れ、職を失う選手も出てくるだろう。余計なお世話かもしれないが、そんな立場に追いやられる選手たちの生活を思うと心配になってくる。とにもかくにも、無責任な第三者の立場から見ればとても興味深かった初めてのJ1昇格プレーオフ。それぞれにこのシステムに関しての賛否両論はあるだろう。ただ目に浮かぶのは、サポーターも含めた京都の関係者の落胆する姿だ。126ポイントのうちの、わずか2ポイント。彼らはきっとこう思っているに違いない。「何のための1年を通したリーグ戦だったのか」と。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている