常に優勝候補の筆頭に挙げられながら、ワールドカップ(W杯)では、ここ2大会連続でベスト8止まり。かつての圧倒的な迫力が薄れた感があったが、ブラジルはやはりブラジルだった。16日にポーランドのウロツワフで行われた日本代表との国際親善試合を見てそう思った。

ことサッカーに関しては、この南米の王国の人々は、その他の国の人々とは違う哲学を持っているのではないかとさえ思わせてしまう。「絶対に勝てない」と思わせるような圧倒的な圧力をかけてくるわけではなかった。逆の「強いな」という印象を与え続けたのは、4日前の前半のフランスのほうだろう。しかし、なにかよく分からないうちに次々と点を重ね、終わってみれば大差がついている。対戦相手からすれば「何でなんだろう」とやられたという事実に現実感を持てない。そんな試合ができるのがブラジルであり、彼らが「魔法使い」と呼ばれてきたゆえんだろう。

今野泰幸のハンドで与えたPKや、ネイマールのシュートが吉田麻也に当たってコースが変わって入った3点目など、日本にとっては不運な場面もあった。それでも4失点で収まったのは、まだいいほうだろう。後半21分、副審の判定ミスでゴールキックになったが、ネイマールのクロスからのラミレスのシュートは明らかなゴール。さらにポストに当たった3本のシュートを考えると、2001年3月24日にサンドニでフランスに0-5で大敗を喫した以上の大量失点をしていてもおかしくない内容だった。

確かに近年にはなかった派手な負け方をしたが、この一戦は日本にとってかなり貴重な経験になっただろう。少なくともアジアでは絶対に味わえない、世界のトップの迫力を目の当たりにできた。ブラジルのゴール前に侵入してくるスピードと技術の高さは、これまでの日本が体感したことのないものだったはずだ。その意味で自陣に張り付くことなく、自分たちのスタイルで真っ向勝負を挑んだことは大きな価値がある。たとえ大敗したとしても、正確に日本の現在地と世界のトップとの距離を測れた。強豪と対戦する2014年ブラジルW杯を見据えれば、ここは守備をガチガチに固めて、もし引き分けの結果を得ていたとしても修正する材料のヒントを手にすることは難しかっただろう。

決めるところを確実に決める。試合後、香川真司も「僕らにもチャンスがなかったわけじゃない。そのなかで点を取れなかったというのは、こういう試合では大きな差として出てくる」と語っていたが、本質のすべてはそこにある。要するにチャンスを確実に決めて点を重ねたブラジルは、精神的に余裕を持ったプレーができた。あとは要所を締めてカウンターを繰り出せばよい。一方の日本は、フランス戦以上にボールを回すことができ、チャンスも作れたが、点という結果がついてこなかったからこそ精神的余裕を失っていった。いくらいい仕事をしても、報酬が伴わなければ心に余裕は生まれない。財布にお金が一杯入っているほうが、生活に不安が少ないのは、サッカーも同じなのだ。

フィニッシュの精度を上げる。それはどの国もが抱える問題だ。それは、あのスペインでさえ例外ではないだろう。難しいのは、その問題が短期間に解決でないことだ。それでも地道に追及していくしか方法はないのかもしれない。これは子どもも含め、日本のサッカー界が長期的に取り組んでいかなければならない課題だ。

開始9分のGKにストップされた本田圭佑の左足のシュート。前半32分の長谷部誠のミドルシュート。後半5分の香川のゴール右に外れたシュート。あのチャンスを確実に決めていかないと、世界のトップに迫ることはかなり難しい。「差をいうとすればゴール前の精度の差なのかなと思う」と、本田もブラジルとの違いを語っていたが、後半31分に久しぶりにセレソン(ブラジル代表)に復帰したカカがいとも簡単にゴールを決めるシーンを見ると、その思いは確信に変わる。得点を特定の選手に頼るのではなく、チャンスを確実に決める選手の数を増やしていく。それが大きく開いたブラジルとの差を縮めていく方法だろう。

ザッケローニ体制になってからの初の欧州遠征。フランスには勝つことで得た経験と、ブラジルに負けることで与えられた課題。ともに日本のサッカー界にとっては、大きな財産となった。その意味で濃密な10日間だった。それにしてもブラジルは、常に日本のサッカー界にいい刺激を与えてくれる。まさに最高の先生だ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている