アジア最終予選の最大の山場、9月11日のイラク戦を前に、6日に新潟で行われたアラブ首長国連邦(UAE)とのフレンドリーマッチ。1-0の勝利を収めたとはいえ「ザック・ジャパン」になってから、最も低調な試合内容だったのではないだろうか。

確かに試合前から不安材料はあった。6月12日のオーストラリア戦での警告累積や退場処分で、チームが立ち上げられてから不動のレギュラーだったCBの今野泰幸と右サイドバックの内田篤人、さらにCBのバックアップの栗原勇蔵の出場停止が決定。チームの安心のより所となるディフェンスラインの顔ぶれが、吉田麻也を除いて一新する緊急事態に追い込まれた。

足首痛の長友佑都に代わり、左サイドに両サイドをこなせる駒野友一を回し、右サイドにはロンドン五輪メンバーの酒井宏樹、CBの左サイドに伊野波雅彦を配して臨んだ試合は、結果的に無失点に終わったが、危ない場面も見られた。特に左サイドのユニット、駒野と伊野波のエリアは距離感とカバーリングの連携が悪く、前半34分にイスマエルにフリーでシュートを打たせるなど、危ない場面も目立った。決まらなかったからいいもの、1点を争う展開が続く最終予選では、致命傷にもなりかねない。結果オーライでは済まされない。

しかし、この日の日本のコンビネーション不足は、急増の最終ラインに限ったことではなかった。開始直後に見せた清武弘嗣のパスから香川真司がヒールで残し、本田圭佑が放った右足シュートは見事だったが、従来のメンバーで組んだ攻撃陣も、複数の選手が絡んでの見せ場は数えるほど。日本の攻撃はオーバーラップした両サイドバックも絡むことが多いので、一概には言えないが、コンビプレーに少なからず物足りなさを感じた。

これはあくまでも憶測だが、その原因はチーム戦術以前に、選手個々のコンディショニングのばらつきにあるのではないだろうか。われわれは日本代表の試合を見るときに、戦術や連携、個人の技術に目をやる。それは選手たちのベストパフォーマンスの状態を知っていて、「当然、そのようにやるだろう」と思っているからだ。しかし、彼らがいかにトップアスリートだとはいえ、常にコンディションがいいとは限らない。彼らも人間なのだ。

今回の招集されたメンバー23人のうち、欧州でプレーするのは12人。スタメンに限れば11人中8人が試合の2日もしくは3日前に帰国した選手たちだ。9月に入ってからだいぶ涼しくなったとはいえ、それ以上に涼しい欧州から戻ってきた選手たちにとっては、日本の残暑と湿度は想像以上にこたえたはず。そして、それ以上に大きな問題となるのが時差の問題だ。

2010年のワールドカップ南アフリカ大会。日本代表の海外組は、本田、長谷部誠、松井大輔、森本貴幸の4人しかいなかったため、彼らが帰国したときでも時差の問題はさほどクローズアップされなかった。しかし、この問題は想像以上に大きいのではないだろうか。日本にいながらにして、昼夜逆転の不摂生な生活をしている「国内時差」のある人間でも欧州帰りの時差に悩まされるのだから、規則正しい生活を送っているサッカー選手の場合、約8時間の時差のなかで日本と欧州を行き来すればパフォーマンスに何らかの影響があるのは間違いない。いくら高い性能を持ったスポーツカーでも、エンジンの調子がよくないと、スピードが出ない。それは欧州組の選手たちにも言えるのではないだろうか。

その意味でこれからの日本代表は、戦術面を担当する監督やコーチと同様に、フィジカル面を担当するコーチの役割が非常に大切になってくる。時差に対しての耐性は個人差があるので、選手に対してのケアはさらに難しくなってくるはずだ。

「イラク戦に関してはフレンドリーマッチではないので、コンディションのいいメンバーを選ぶ」。ザッケローニ監督の言葉は、コンディショニングが戦術と同等重要な比重を占めることを意味する。そして今後の日本代表は、常に対戦相手とは違うもう一つの敵、コンディションと向き合っていかなければならない。その対策を怠ると、急速に力を蓄えてきた他のアジア諸国に、足をすくわれかねない。

若いUAEに苦戦した日本。コンディショニングの良し悪しが、いかに内容を左右するかを再確認するには意義のある一戦だった。欧州のビッグクラブで活躍するスター選手を揃えるブラジルやアルゼンチン。彼らもW杯予選で格下の国に苦戦するのは、同じ問題を抱えるからだろう。決して観客に喜びを与える内容ではなかった。しかし、日本にとっての好材料は、この試合をこなしたことでイラク戦までには個々のパフォーマンスが上向きになるであろうということ。埼玉スタジアムでの大一番を制して、本大会出場に大きく前進してもらいたいものだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている