プロ野球日本代表「侍ジャパン」が一転、来年3月に開催される第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場することになった。7月に一度は不参加を決めた労組日本プロ野球選手会が求めていたスポンサー権などが認められたことと、日本野球機構(NPB)が「侍ジャパン」専門の事業部局を設けることなどから、新井貴浩選手会長(阪神)が4日、記者会見して大会参加を表明した。今後の焦点は代表監督選びに移るが、一連の騒動は70年を超す歴史がある日本のプロ野球界の大転換への一歩となる可能性はあるし、またそう期待したいものだ。

▽コミッショナーへの不満

選手会がNPBの尻をたたき続けた結果であった。第1回大会の時から指摘されていたことだが、実質大リーグ側66%、日本側13%という不平等な利益配分などをNPBが改善する努力を怠っていたことに選手会が業を煮やしての不参加表明だった。WBCを主催する大リーグ側からの「招待試合」とはいっても、各国が改善を主張して、立派な大会にしていくのは当然である。五輪の競技種目から外された野球が欧州を含めた大会を開く意義はある。日本マネーが大会を支えることを抜きにしても、日本はもっと主張すべきだったのだ。

参加表明の席で、新井会長はNPBの加藤良三コミッショナーをこう批判した。「(本来)NPBが先頭に立ってやらなければならない問題。加藤コミッショナーは役目を果たしていないのに、野球界を考えて出場すべきと言うのは残念だったし、筋違い」。同コミッショナーは選手会の不参加表明に「金目に換算できない」と、選手会がさも金銭闘争をしているかのような印象を与えたり、「被災地のためにも出場すべき」と言ったりした。昨年、東日本大震災直後のプロ野球開幕日をめぐる騒動で、加藤コミッショナーの言動が、必ずしも被災地に配慮したものではなかったことを思い出す。

▽12球団は運命共同体

選手会の松原徹事務局長は「NPBにお金が集まる仕組みをつくりたい。一部球団に頼る時代は終わった。12球団が一致してくれないと」と、今回の騒動での本音を口にしている。NPBが中心となって、プロ野球界全体の人気を上げる方策に取り組み、入場料やテレビの放送権料、グッズ販売などで各球団の利益アップにつなげてはどうかということだろう。日本シリーズとオールスター戦を主催するだけのNPBがもっと積極的にビジネス展開して力を蓄え、野球人気を不動のものにするためにアマ球界を含めた野球の組織づくりにプロ野球の果たす役割があるということだろう。

大リーグは「30球団運命共同体」の意識が強く、金持ち球団が貧乏球団にお金を回す仕組みをつくっている。できるだけ球団間の戦力均衡をはかり、接戦のペナントレースを提供しようと努力している。その点、日本のプロ野球は有史以来、各球団の経営努力に任されていて、黒字球団と赤字球団の格差は大きい。これが戦力の不均衡を招く一因となっている。NPBが手を出せない問題であるのは事実だが、そこに今回、風穴が空いた。

▽巨人中心からの脱却

パ・リーグは2007年にパシフィック・リーグマーケティング(PLM)を立ち上げ、6球団で映像サービスやチケット販売、スポンサー獲得などリーグ統合型のビジネスを展開。大リーグをモデルにし、将来的には12球団統合を目指していて、現状ははかばかしくないが、主旨は理解できる。今年、加藤コミッショナーは再任されたが、パの一部球団が「待った」をかけた。ビジネス展開に理解を示さない同コミッショナーに異議を申し立てた格好だ。こうした不満がたまっている事実を認識すべきだろう。

新しくプロ野球に参入してくる球団オーナーはこぞって「球界からの利益配分」にあずかるものと胸を躍らせるが、それが失望に変わるまでにそう時間はかからない。その昔、球団を持ったばかりのヤクルト・松園尚巳オーナー(故人)もそんな1人だったが、巨人のあまりの壁の高さに「プロ野球は巨人中心がいい」と方向転換したものだった。PLMはそうした球界の仕組みを打破しようとしたのである。もちろん巨人の努力は並大抵ではないし、「わが道を行く」球団はパにもある。親会社の広告塔としての役割で生きながらえているだけで、親会社がおかしくなれば球団身売りとなる、「資産価値」のない球団を買う会社はそうざらにはない。

▽政策者集団で立案?

「侍ジャパン」専門の事業部局立ち上げを契機に、他の新事業展開も視野に入れてはどうか。巨人などは反対するだろうが、12球団が運命共同体だと考える時期にあるのが、人気面が心配される現在のプロ野球である。リタイアした球団代表経験者などを起用してコミッショナー直属の「政策者集団」をつくる手はある。NPBを動かす現役の球団役員では、どうしても「球団の利益枠」から出られないだろうから。

今回、選手会が「血を流す覚悟」で空けた風穴をぜひ生かしてもらいたい。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆