第12戦チェコGPの決勝レースは、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム/スペイン)とホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング/同)が息詰まる攻防を繰り広げた。全22周で争われたレースは、序盤から両選手が後続を突き放す一騎打ちの展開。最終ラップでも何度かトップを入れ替える激しいバトルが続いたが、最終セクションをペドロサが再々逆転で制して前戦に続く2連勝、今季3勝目を挙げた。そしてその背後では、この両名から少し離されたものの、カル・クラッチロー(モンスター・ヤマハ Tech3/イギリス)が3位でフィニッシュした。

2011年にモトGP参戦を開始したクラッチローは、今季に入って予選でフロントローを獲得するようになり、決勝レースでも上位に迫る走りで、徐々に頭角を現しはじめていた。今回の大会では、土曜午後の予選で2番手という自己ベストグリッドを獲得。偶然にもその直前には、来季2013年も同チームから引き続き参戦する旨の正式発表が行われていた。この勢いに乗って決勝レースでも高パフォーマンスを予感させたが、周囲の期待にきっちりと応えて3位でゴール。

「来年の契約更改を発表したレースで、フロントロースタートからモトGP初表彰台を獲得できたのだから、来年に向けて最高のスタートを切ることができた」と素直に喜びを語ったが、じつはこのレースはイギリス人選手にとって12年ぶりの表彰台という記念すべきレースでもあった。

「12年前といえば……、バレンティーノ(ロッシ)が勝って、ジェレミー・マクウィリアムスが表彰台に上がったレース(2000年イギリスGP)だっけ?」

会見の場でクラッチローがそう答えたとき、記者席で電話が鳴った。「電話は切っといてよね」と指摘するひとことすら笑いを呼ぶ雰囲気で、記者の側も「マクウィリアムスからの電話だよ」とやり返してさらに場の空気は穏やかになった。

「今日の3位を皮切りに、今後もどんどん表彰台に上がりたい。次の表彰台まで、イギリスのファンを長くは待たせないつもりだよ」

気の利いたユーモラスな受け答えで定評のあるクラッチローのコメントに、イギリス人取材陣の表情は一様に和んでいた。小説や映画では、個性的な脇役の存在がストーリーをいっそう際立たせるが、それはスポーツの世界でも同様だ。クラッチローが存在感を発揮して主役のロレンソやペドロサたちに迫っていけば、レースはさらに多角的な面白さと魅力を発揮する。そう、ユニークな脇役は、ときに主役の存在を喰ってしまうことさえあるのだ。(モータージャーナリスト・西村章)