クライマックスシリーズ(CS)出場も絶望視されるプロ野球の阪神だが、観客動員数が200万人を突破した。14年連続の達成。首位巨人から23ゲーム差の5位で、3位広島からも8ゲーム離される(いずれも8月14日現在)ふがいない成績にもかかわらず、8月上旬の突破はさすが人気球団。ただ、和田豊監督ら首脳陣へ厳しい目が注がれていて、関西のスポーツマスコミは監督交代も視野に早くも「ストーブリーグ」に突入している。

▽上位2球団に大借金

ファンは憤まんやるかたない思いだろう。巨人に3勝12敗3分け、中日に3勝10敗1分けと、本来なら優勝争いをしているはずの上位2球団に手もなくひねられている。特に巨人には、投打に実力差を見せつけられ、選手たちは勝てる気がしていないのではなかろうか。「伝統の一戦」の看板が色あせている。

阪神の坂井信也オーナーは「監督の交代はない」と、和田監督の続投を口にしているそうだ。なるほど、3年契約の監督を1年で切ればいい恥さらしだし、フロントの責任問題にもなるが、昨年オフに真弓明信監督を更迭したばかりで、球団は誤算に頭を抱えているに違いない。

要は和田監督の力量をどう見ているかに尽きると思う。成績が悪ければ監督が責任を取るのは洋の東西を問わないからだ。大リーグでは、チームづくりの責任者であるGMの首が飛ぶことだってよくある。その点、日本では不成績でフロントが責任を取らされることはなく、監督の首のすげ替えで済ましてきた。あくまでチームづくりや監督選びはフロントの責任なのである。

▽和田監督の役割

阪神はどんな構想のもとに和田監督に任せたのか。勝てる監督と見込んでの指名なら和田監督に責任を取らせればいい。長年、1軍コーチを務めた経験から昨年の監督就任時に「ちょっとスパイスをきかせれば勝てる」と話した根拠はどこにあったのか。その和田監督を支える参謀役はいるのか。頼みの外国人選手や抑えの藤川球児投手の不振など監督には気の毒な面もあるが、勝負とはそういうものだ。

一方、“高齢化"する主力選手から若手への切り替えを託したのなら、球団は辛抱強くなければいけない。優勝争いをしながら世代交代ができる名将など、そういるわけではない。巨人だって過去2年は3位に甘んじてきたが、今季は戦力強化で独走している。

阪神と巨人の違いを挙げるとすれば、これまで就任した監督の人数だろう。セ、パ2リーグに分かれた1950年から現在まで巨人は延べ10人だったのに対し、阪神は実に延べ26人。当然、監督在任期間には大きな違いがある。監督を2度やったのは巨人は長嶋茂雄氏ら3人だが、阪神は5人で、吉田義男氏は3度も務めている。人材に差があることを裏付けていよう。

▽監督は信念を持て

監督は信念の人でなければ務まらない。1993年のダイエー(現ソフトバンク)の根本陸夫監督は監督1年目のこの年は勝率3割6分の最下位だった。オフのオーナーへのあいさつの席で、中内功オーナーから「どうだった」と聞かれた根本監督は平然と「ほぼ順調にシーズンを終えました」と答えた。中内氏は「何言っている」と驚くのだが、それから1カ月もしないうちにさらに仰天させられる。昼のNHKテレビのニュースを見て、初めて佐々木誠選手と西武・秋山幸二選手を軸にした3対3の大型トレードを知る。外部へ漏れることを恐れた根本氏がオーナーに事後承諾で事を進めたのである。

1年間指揮を執って「ダイエーを強くするには軸になる選手の交代が必要」との信念で進めたことだった。GMを兼ねた根本氏ならではの芸当だが、それでも王貞治監督で初優勝するまで7年を要した。監督は信念を貫き通すことだ。元中日監督の落合博満氏などはまさに好例である。

▽37年前のトラ本

37年前に書かれた「吼えろ!タイガース」を読み返した。ペンネームを五百崎(いおざき)三郎という、当時大阪の夕刊紙のベテラン記者が著したもので、言ってみれば「トラ本」のはしりみたいな本だった。1度目の吉田監督誕生前後にスポットを当てて、なぜこうも毎年のようにお家騒動が起こるかを憂いながら、新しいタイガースを吉田新監督で築こうという内容だ。

再建に克服すべき5つの大罪を挙げている。要約すれば(1)阪神の監督就任は主力選手の造反と力の強弱で決められてきた(2)だから監督は望むコーチ陣編成が自分で組めない(3)コーチは保身から監督を無視し、選手を甘やかし、フロントや選手の顔色を伺う(4)主力選手は監督・コーチをばかにする(5)フロントは監督の首を自由にすげ替え、選手を甘やかし、組織づくりを忘れていた―。暗黒時代もあった阪神が、久万俊二郎オーナー時代に野村克也氏や星野仙一氏(現楽天監督)らを外部から招いて球団を変えた。

▽ファンも長い目で

最後の優勝は2005年だった。ここは「フロント組織の強化に手を付けると同時にブルドーザー型指導者で現場を掘り起こす。それから勝負できる監督を据える」といった5カ年計画で戦ってみてはどうだろう。いつかは救世主が現れると期待しているうちに5年ぐらいすぐに経つ。「悠長なことをぬかすな、どアホ」との声が聞こえてきそうだが、“再建"のつち音を聞くのもそう悪いことではないと思うが、どうだろうか。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆