1次リーグから無失点で快進撃を続けていたロンドン五輪のサッカー男子日本代表。その予想外の躍進を目にしながらも、一つの疑問が、頭の隅に残っていた。それは「初失点を喫したとき、このチームはどうなるのだろう」ということだった。

7日に行われたメキシコとの準決勝。日本は前半12分、東慶悟の横パスを受けた大津祐樹が、豪快なミドルシュートを決めて先制。流れは日本のペースになりかけた。ところが早い時間帯での失点ということもあり、メキシコは動揺を見せることはなかった。徐々に傾きかけていく試合の流れ。結果的にいえば、メキシコは日本が今大会で戦ってきたどのチームに比べても、成熟度という面では飛び抜けた存在だった。すべての面で少しずつ日本よりレベルが上だった。

日本が銅メダルを獲得した44年前のメキシコ五輪の3位決定戦のリベンジでもないだろうが、メキシコは日本を徹底的に研究していた。日本の最大の武器である前線からのプレスを深く引いた最終ラインで効果的にいなし、日本の体力を奪っていった。190センチ近い数人の長身選手はいるが、平均身長では日本と変わらない。ところが彼らを近くで見ると、体の厚みが違う。プロレスラーのような頑強な男たちが、高い技術を持って機動力豊かに動く。イングランドのトットナム・ホットスパーで活躍するエースのドスサントス以外は、メキシコの国内クラブに所属。普段、2000メートル級の高地でプレーしている選手たちにとって、準々決勝でセネガルとの延長戦を戦ったことは、体力的にも大きなハンディになってはいなかった。

前半31分のCKからの同点ゴール。ニアポストに入ったエンリケスの高さを生かし、ファビアンが奪ったCKのパターンは相当考えられたものだったのだろう。人をゴール前に集めることで、GK権田修一のプレースペースを消す。ハイボールに強い権田でも、ボールの落下地点に入ることができなければ、手を使えるというアドバンテージは、なんの意味も持たなかった。

日本がやるべきことを、逆にやられた。メキシコの前線からの強烈なプレスは、ここまで見事につながっていた日本のパスワークに大きな乱れを生じさせた。さらに日本の攻撃の起点となっていた2ボランチ、扇原貴宏、山口螢を効果的に封じ込めた。勝ち越し点となった後半20分のペラルタの見事なゴールは、GK権田自身「もう少し落ち着いていれば」の後悔はあるだろうが、扇原にボールが渡った瞬間をアキーノとペラルタに見事に狙われた。力負けと認めなければいけないだろう。ロスタイムのダメ押しの3点目で、その思いはさらに強まった。カウンターからのペラルタの遊び心のあるヒールパス。それを受けたコルテスの、DF2人をものともしない突破と冷静なフィニッシュ。組織力で負け、個の力でもねじ伏せられたとの思いが強かった。

五輪史上、初めて本気で金メダルを狙った日本代表。メキシコ五輪で銅メダルを獲得した日本が、準決勝で0-5の大敗を喫したことを考えると、今回のチームはそう呼べるのではないだろうか。しかし、戦いはまだ終わってはいない。宿敵韓国との3位決定戦が残っている。

2008年11月に、サウジアラビアで開催されたU―19アジア選手権の準々決勝で、日本は韓国に0-3の完敗を喫した。そして、U―20ワールドカップの連続出場を7回で途切れさせた若者たちは、「谷間の世代」と呼ばれながらサッカー人生を歩んできた。当時のメンバーが権田であり永井謙佑、村松大輔だった。そのありがたくない呼称を返上する機会が、メダルを懸けた五輪という大舞台で与えられた。

「金メダルは最高の輝きだ。しかし、銅メダルも素晴らしい色をしている」。44年前、メキシコとの3位決定戦を前に、ドイツ人コーチのデットマール・クラマーは、準決勝で敗れた日本の選手たちに、こう声をかけたという。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている