ヤマハファクトリーレーシングに所属するアメリカ人選手ベン・スピースが、ホームグランプリの第10戦アメリカGP直前に、今季限りのヤマハ離脱を表明した。レースが行われる週の月曜、7月23日にツイッター上で「来年は大きく環境が変わる」と示唆。翌24日にアメリカの親しいジャーナリストへ宛てた電子メールでヤマハを去る旨を告白し、その記事が掲載されたサイトのリンクを再びツイッター上で示すことにより、自らの意思表示とした。しかし、その理由や今後の去就に関しては「いずれ時期が来たら公表する」と述べるのみで、今回の決意に至る背景やその詳細はいまだ明らかにしていない。

現在28歳のスピースは、モトGPにフル参戦して今年で3年目になる。2006年から2008年までスズキでAMA(全米選手権)の3年連続総合優勝を達成した後、2009年に、ヤマハファクトリーチームからSBK(スーパーバイク世界選手権)へ参戦してチャンピオンを獲得。翌2010年から鳴り物入りで、最高峰のモトGPフル参戦を開始した。ヤマハサテライトチームに所属した初年度は、2戦で表彰台を獲得。2011年に現チームへ移籍し、1勝を含む4表彰台で年間総合5位。今季は本格的活躍を期待されたが、不運なレースが続いた。雨のレースでヘルメットに浸水して前が見えなくなってしまったり、タイヤトラブルや食中毒などにも見舞われて、第9戦終了段階でランキング10位に沈んでいた。

今回のあまりに突然の離脱表明は、パドック関係者全員を驚かせた。ヤマハ発動機モトGPグループリーダーとして現場を束ねる辻幸一ですら、「寝耳に水。ベンから事前に何も聞かされておらず、自分たちもツイッター経由ではじめて知った。この件については、まだ何も彼と話をしていない」と戸惑いの色を隠さない。チームメイトのホルヘ・ロレンソも「彼自身が決めたことだから、何らかの理由があるのだろう」と一定の理解を示しながらも、「レースに勝てる実力の持ち主だけに残念。ヤマハのライダーとしてモトGPに残っていてほしかった」と語った。

上記のアメリカ人ジャーナリストに対して、スピースは電話で「へきえきした」という主旨の言葉を伝えており、今後の去就については様々な憶測を呼んでいる。スピースをよく知るもうひとりのアメリカ人関係者は「彼と行動を共にする母親は、権謀術数が入り乱れるモトGPよりもアットホームなSBKの雰囲気を懐かしがっている」と話す一方で、AMA復帰の可能性もあり得る、とも推測する。

第10戦の事前記者会見では当然のようにこの件に関する質問が飛んだが、スピース自身もまた当然のように詳細を明かさなかった。日曜の決勝レースでは、4番手を走行中の22周目に突然の転倒。原因はスイングアームのトラブルだった。「ダメなときはとことんダメなものさ」と、どこまでも続く不運には、さすがに本人も苦笑気味。2週間の夏休みを挟んで、シーズンは後半戦に入る。ヤマハで最後となる8戦で、悪い流れを断ち切れるだろうか。(モータージャーナリスト・西村章)