大津市のいじめ自殺事件が連日メディアをにぎわせている。加害者の非道さのみならず、学校や教育委員会、警察など事なかれ主義に怒りを抑え切れない。お役所を動かしたのは間違いなくマスコミの力。報道に携わる人間は、自分たちの持つ力の強さと使命を再認識したのではないか。

こんな時にこそ、格闘技界もいじめの撲滅に力を注ぐべきだ。「弱い者いじめはやめろ。格闘技をやって、もっと強い人間になろう」という姿勢もいいが、いじめられる側の子どもに対し「格闘技をやって、いじめに負けない強い心身を」と訴えるべきだ。

ボクシングの内藤大助氏が子どもの頃に壮絶ないじめを受けていたことは有名な話。その経験が世界王者につながった。K-1でレフェリーをやっていた猪狩元秀氏は、高校生の頃に不良グループに恐喝され、抵抗できないままお金を巻き上げられた。「情けない」という気持ちが格闘技入りの動機で、キックボクシングの日本王者に上り詰めた。東京五輪レスリング金メダリストの花原勉氏も小学生の頃にいじめを受けた経験者。「大病のため1年留年した。落第し、体が小さかったのでいじめの標的だった。悔しくて、強くなりたくて柔道を始めた」という。

こうした例だけではなく、格闘技で心身を鍛えたことで、人生を力強く生きられた人間は数知れない。格闘技は他のスポーツ以上に闘争心が養えるスポーツだ。格闘技をやってケンカの道具にしろ、とは言わない。体の大きさが違ったり、相手が多数の場合、やり返せるものではない。しかし、何の抵抗もしない子や引きこもる子などがいじめの対象となる。格闘技の道場に通うことで、そんな状況を打破できる可能性はあるはずだ。

高田延彦氏が自分の道場のみならず全国各地でレスリング教室を開いている。「まず体験させよう」という行動は格闘技の振興につながる。そんな格闘家がもっと出てきてほしい。いじめを受けた経験のある格闘家がいたら、積極的に体験談を話し「いじめに負けるな」と訴えてほしい。格闘技の持つ使命は、こんなところにもあると思う。(格闘技ライター・樋口郁夫)