「ぶち切れた」という表現がぴったりだった。6月20日、ラグビーのフレンチ・バーバリアンズ戦の記者会見で、日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチは「ひどいパフォーマンスだった。選考を考え直さないといけない。本当に勝つ気はあるのか」と最後まで怒りは収まらなかった。成長を促すために刺激を与える意味があったのだろう。「私は我慢強い」と言っていた本人が、報道陣を前に真っ先に感情をあらわにした。日本ラグビー界を変えるには、世界的な名将でも一筋縄ではいかないということだろう。

日本ラグビーは、世界を知って人気が低迷したと言っても過言ではない。「6万人で国立競技場が満杯になった」というのも今は昔。さまざまなスポーツが次々と世界で活躍する一方、ラグビーはワールドカップ(W杯)で既に20年以上勝ち星がない。6月10日のパシフィックネーションズ・カップで、日本代表がトンガ代表と対戦した試合の観衆は7719人。すぐそばの国立競技場で行われたサッカー女子のプレナスなでしこリーグでは、IN神戸と日テレという首位決戦で観衆は1万6663人と倍以上だった。「6万人」を知らない世代の私にとっても、スタンドに出て寂しさを感じることが多い。

人気低迷というひと言では済まされない特別な事情がある。2019年W杯の日本開催だ。参加チームは20チーム、計48試合を開催し、サッカーW杯より長い約6週間にわたって行われる。過去に開催したのはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカなど名だたる強豪国ばかり。収入の大部分をチケット販売に頼らざるを得ないという課題を乗り越えられるか、大きな不安が残る。

打開するには、日本代表の強化が不可欠だ。国際ラグビーボード(IRB)も定期的に世界の強豪と試合を組むよう日本の強化支援に乗り出し、IRB普及強化担当部長のマーク・イーガン氏は「日本を世界レベルに引き上げることが重要な課題」と行く末を気にかける。

そんな苦境でジョーンズHCが就任した。母国オーストラリアの監督として地元開催のW杯で準優勝し、南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーとしてもW杯優勝。日本でもサントリーを率いて2年連続日本一になった。関係者は「あんな人が日本にいること自体、ラッキーとしか言いようがない」と絶賛する。名選手だったジョン・カーワン氏が率いた昨年のW杯は、日本人の特性を生かすという目標を掲げながら外国出身選手を多く起用して1分け3敗。ジョーンズHC以上に、落胆するラグビーファンの気を静めてくれる人はいなかっただろう。

パシフィック杯は「15年W杯で世界トップ10に入るためには勝たないといけない相手」(ジョーンズHC)というサモア、トンガ、フィジーといった中堅国との戦いだった。キックを多用せずにパスを素早く回して空いたスペースに走り込むというスタイルを愚直に貫いたが、第1、2戦と連敗。それでも、指揮官は好意的なコメントをやめなかった。

そして第3戦のサモア戦。敗れはしたが、大会の優勝チームを相手に最も目指すべき姿が見えた試合だった。サントリーに所属し、ジョーンズHCをよく知るベテランのWTB小野沢は「何が優位に立てる点なのかということを、みんなが実感してきている」とチームの成長具合に手応えの大きさを語った。「日本語が読めないことはいいこと。みなさんが書いている記事がわからないから。私は辛抱強くやっていくつもり」。ジョーンズHCは笑顔で報道陣をなだめるように語ったこともある。冒頭の「ぶち切れ」はこの大会を終えて3日後だったから、驚いた。

就任してまだ3カ月だ。パシフィック杯に出場して日本に勝った国も新チームになって3カ月だ。追い越すための時間は、そう多くはない。ただ、ジョーンズHCが背負う期待が大きすぎるとも感じる。現在のラグビー人気について、日本協会の森喜朗会長は「昔に比べると、サッカーとラグビーは立場が逆転しちゃったな。あぐらをかいていたってことなんだろうな」と話したことがある。そんな状況を変える時間は、もっとない。

渡辺匡(わたなべ・ただし)2002年共同通信入社。和歌山支局、大阪社会部などを経て11年から運動部。ラグビー、テニスなど担当。東京都出身。