6月12日、サッカーの日本代表はワールドカップ(W杯)アジア最終予選B組最大のライバル、オーストラリアを相手に、アウェーで1―1の引き分け。敵地で勝って勝ち点3をもぎ取るという最高の結果にはならなかったものの、勝ち点1を得られたことはそれほど悪いことではないだろう。

オーストラリアが退場者を出した後の20分に、ショートコーナーから本田圭佑がドリブルで切れ込んでのラストパスを栗原勇蔵が押し込んでの先制点。確かに勝ちを得てもおかしくない展開に持ち込んだが、試合全体を通して見ると、逆に負けていてもそれを受け入れなければならない内容だった。その意味で引き分けは妥当。日本、オーストラリアともにお互いのサッカースタイルがあり、その戦い方の違いで様々な印象の受け止め方はあるだろうが、去年のアジアカップ決勝も延長戦にもつれ込んだことを考えると、この両チームの実力差はさほどないことをあらためて思い知らされた。

それにしても久しぶりに何度も攻め込まれたといった感じだ。特に前半20分過ぎまでは。オマーン戦、ヨルダン戦とほとんど仕事のなかったGK川島永嗣が、試合開始直後からフル稼働。開始6分のケーヒル、ウィルクシャーの連続シュートを冷静にさばいてくれなかったら、試合はかなり苦しいものになっていただろう。この試合に関しては、後半ロスタイムのウィルクシャーのFKをファインセーブしたプレーも含めて、川島の存在感は抜群だった。

浦和レッズの指揮を執っていたということもあり日本のサッカーを熟知しているオジェック監督をはじめ、オーストラリアは日本のことをよく研究していた。現在の日本の最大のストロングポイントは、高い技術を持った選手が揃う中盤だ。その中盤での優位性を生かすために、前線から相手のボールホルダーにプレッシャーを掛け、相手ゴールに近い位置でボールを奪い、パスをつないでゴールを狙うというのが基本コンセプトだ。しかし、オーストラリアは意識的に中盤での局地戦を避けた。ロングボールで一気に日本の誇る中盤の選手たちの頭上を通過させ日本のゴール前で空中戦の勝負。ヘディングで日本の守備陣に勝てるという選手が前線に揃っていれば、それは理にかなった戦い方だった。

中盤を丁寧に作っていくパスサッカーが主流になっていくなかで、昔のイングランドを思わせるロングパス戦法は美しさに欠ける。とはいってもサッカーは美しさを競うものではなく、奪ったゴール数で勝敗を決めるゲームだ。そしてフィジカルとヘディングの高さを前面に押し出したこの日のオーストラリアのサッカーは、美しさには欠けたものの、間違いなく日本の守備陣を混乱に陥れた。思えば以前にもこのような試合を見たことがある。

1996年にアラブ首長国連邦で開催されたアジアカップ。加茂周監督の下、日本は当時、世界を席巻していたACミランの守備戦術“ゾーンプレス"を引っ提げて大会に臨んだ。前線から中盤にかけてバスケットボールでいうオールコートプレスのような激しいボール奪取を見せた日本は、グループリーグを3戦全勝。日本が発展途上の時期だったこともあり、「これはすごい」と思ったと記憶している。ところが決勝トーナメント1回戦のクウェート戦、ゾーンプレスは何の効力も発揮しなかった。この試合でクウェートは最終ラインからトップにいる点取り屋フウェイディへのロングパスを多用した。ゾーンプレスの主戦場である前線から中盤のエリアにボールが入ってこなければ、最新の戦術そのものが意味をなさない。結果的に日本のDFより個の力で勝るフウェイディに2ゴールを奪われ、0―2の完敗を喫したのだ。

W杯本大会に出場してくるチームは、ロングパス戦法一辺倒という武骨なサッカーを展開するチームは少ないだろう。それでも日本が2年後のブラジルでの本大会に出場したときに、この日のオーストラリアの戦法は、多少なりとも日本と対戦するチームにとっての参考となるだろう。

「日本は高さに欠ける」。このことは世界サッカー界の定説になっているのかもしれない。2010年のW杯南アフリカ大会でも、パラグアイ戦などはかなりゴール前にハイボールを入れられた。ところがこのときは、定説に反して日本のゴール前に中澤佑二、田中マルクス闘莉王という日本サッカー史上最もヘディングが強いであろう2センターバックが揃っていた。世界レベルにも互角に渡り合える高さを持つゴール前の壁。W杯ベスト16は、彼らの存在なしには考えられなかった。そしてこの2人がチームに同時に存在したこと自体、過去のチームを考えれば日本にとっては奇跡に近いことだった。

日本は確実に強くなっている。中盤の構成力は、現在開催されている欧州選手権の出場国のなかに入っても上位に入るのではないだろうか。だからこそ、このチームがさらに世界でのランクを上げるためには、アジアレベルで戦っているうちは目立たないだろうが、センターバックの強化が必須だ。それは現在いる選手が個の力を伸ばすのか、新たな人材を発掘していくのか。欲をいったら切りがないが、この日のオーストラリア戦での空中戦の劣勢を目にすれば、そう思わずにはいられない。

それにしても日本にとってもオーストラリアにとっても、この日のサウジアラビアのガムディ主審は訳の分からない存在だったのではないだろうか。でもそれを気にしてもしょうがない。長くサッカーを見ていると、たまにこんな困った存在のレフェリーはいる。

1978年W杯のブラジル―スウェーデン。後半ロスタイムにブラジルの右CKから当時“背番号8"のジーコがヘディングシュートで決勝点を挙げたかに見えた。ところが判定はノーゴール。ウェールズのトーマス主審は、ボールが空中にある時点で試合終了のホイッスルを吹いたのだ。それに比べたら本田にFKを蹴らせずに試合を終わらせたガムディ主審は、まだかわいい方だったのかもしれない。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている