厳しい経営環境のもと企業スポーツが冬の時代を迎えている中、西部ガス(福岡市)が4月に硬式野球部を創部した。会社組織全体の活性化や、スポーツによる地域社会への貢献が主な目的。監督に日本代表や社会人の強豪、日本通運で指揮を執った杉本泰彦氏(52)、コーチには駒大苫小牧高(北海道)の監督として夏の甲子園大会連覇という実績を持つ香田誉士史氏(41)を迎えた。選手は全員が社員。ゼロからのチームづくりに向け、少年のように瞳を輝かせる“豪華なスタッフ"の言葉の端々に熱い思いを感じた。

「当然と思っていたことをフラットにして、ゼロから考えることに魅力を感じた」「日本通運では一日中練習ができた。こちらでは半分の時間でやらなければいけない。それも勝つために」。杉本監督の言葉だ。年間の運営費用は必要最低限の約3千万円を見込む。日本野球連盟によると、企業チームの年間の平均運営費は5千万~6千万円で、多いところは7千万~8千万円。西部ガスの選手は午前の業務を終えた午後から練習を始める。細く長く、時代に即した運営を目指すチームの方針に、親近感と期待感すら湧いてくる。

香田コーチは「(社会人野球の)経験がないのに話をもらい、本当に感激している」「アマチュアの最高峰にあると思っている」と、謙虚に喜びの言葉を並べた。駒大苫小牧高の監督として2004年に北海道勢として初の全国制覇、05年には田中将大投手(現プロ野球楽天)らを擁して57年ぶり6校目の夏連覇に導いた。08年3月末で同校を退職後、大学野球の鶴見大(神奈川大学連盟)のコーチに就いた。築き上げた地位を守り続ける道もあったはずだが、あえて新しい世界へ足を踏み入れた。その背景と覚悟に関して香田氏の口から出てきた言葉は、素朴で純粋だった。「もっといろんなものを見たいし、感じたい。23歳で高校野球の監督になり、コーチの経験がないとずっと思っていた」。さらに「あのまま北海道にいたら、勘違いしている可能性があった。名監督扱いされ、非常に違和感があった。ただの教員なのに…」と続けた。

豊富な経験を糧にどっしりと構える杉本監督と、すべてを吸収しようとエンジン全開の香田コーチに、18人のうち新入社員が13人の部員。初々しさがあふれる選手に対し、香田コーチは高校野球の指導スタイルをそのままぶつけている。プレーに関する細かい助言や、声出しがその主なものだ。杉本監督は「社会人は照れやおごりがあり、あそこまで徹底させない。アマ野球の根本を香田君に任せたい」と全幅の信頼を置き、香田コーチは「(これまでと)同じスタンス」と言葉に力を込める。

社有地を即席で野球場に仕立て上げたグラウンドには石ころが散在する。杉本監督は「バケツを置いているので、拾って入れるように」と選手に指示を出した。チームの成長歩合と石の数が反比例となったとき、西部ガス硬式野球部の存在感と実力は高まっているはずだ。3年後の都市対抗大会出場が当面の目標。2人の名将の手腕発揮に、期待を寄せながら見守りたい。

米澤万尋(よねざわ・まひろ)2008年共同通信入社。大阪支社運動部を経て、10年から福岡支社勤務。主にアマチュア野球やサッカー、陸上などを担当。仙台市出身。