第4戦フランスGPが開催されたル・マンサーキットで、木曜の事前記者会見の際に、チャンピオンのケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ/オーストラリア)が今季限りで現役活動に終止符を打つと明らかにした。最終的な決断に至ったのは、今回のレースに先だつ日曜夜から月曜未明にかけてのことだったという。

2007年にドゥカティで年間10勝を挙げて総合優勝、ホンダに移籍した昨年も同じく10勝で2度目の総合優勝を達成したストーナーは、以前から、長く現役活動を続けるつもりはない、レースが楽しくなくなったら引退すると公言し、あと数年で選手生活に幕を引くと推測されていた。それでも、名実ともに二輪ロードレースの頂点を極めている真っ直中での引退発表は、パドック内外に大きな衝撃をもたらした。

引退を決心した理由のひとつは、レースに対してもはや情熱を持てなくなったからだという。とくに、プロトタイプマシン以外にも量産車エンジンを使用した車輌が参加できるようにルールを変更し、参戦の敷居が低くなった今のモトGPに対しては強い違和感と失望を感じており、「(今の姿は)ぼくが大好きだったレースじゃない。自分が憧れたレースはこういうものではない」と、正直に告白した。

「引退する人にはそれぞれの理由がある。いったん引退した後、(F1の)シューマッハや(自転車レースの)アームストロングのように復帰する人たちもいるけれど、彼らはきっと静かな生活になじめなくて、元にいた世界と関わり合いたいと考えるんだろう。ぼくは静かな生活が好きだし、その生活のなかで忙しくすることもたくさんある。バイクに乗るのは楽しいけれども、この雰囲気はもう楽しくないんだ」

引退について考える契機になったのは、2009年に判明した乳糖不耐症という体質だ。身体が乳製品を受けつけないために極度の疲労感や消化器症状などが発生し、シーズン途中で数カ月の休暇を余儀なくされた。その際に、最も大切なものは家族だということを実感した、という。引退の決断は長年相談をしてきた夫人にまず報告し、次に父親、そしてホンダとチームに伝えた。

記者会見で引退を発表した翌日から始まったフランスGPの練習走行では、「コースインして最初の数周は、このサーキットをレースバイクで走るのはこれで最後なのだと思うと少し奇妙な気持ちになった」という。土曜の予選ではフロントロー2番グリッドを獲得し、日曜の決勝レースは最終ラップまでバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)と激しいバトルを展開してフランスのファンを沸き立たせ、3位でチェッカーを受けた。

「もし、さらにもう一年継続したら、レースへの情熱どころかバイクに対する愛情そのものすらなくしてしまうかもしれない」と話していたストーナーは、「引退を思い直す気はないか」との取材陣の問いに、笑顔で即答した。「ないんだ。申し訳ないけど」(モータージャーナリスト・西村章)