少々古い話になるが、1983年のF1グランプリシーズンを振り返ると、この年はグランドエフェクトカーと呼ばれた、強力なダウンフォースを持つマシンの使用が禁止された年で、シーズン序盤はまさにどのマシンとドライバーも実力が拮抗し、5戦を終えて5人の違う優勝ドライバーが揃う最高に白熱したシーズンだったと言う。そして2012年、まるでデジャブのように、再び歴史は繰り返している。ブローディフューザーと呼ばれる、強力なダウンフォースを生むシステムが禁止となり、ひとつのミスで予選順位が3つも4つも変わるほど各マシンの速さは拮抗。そしてシーズン開幕から5戦、5人目の、しかも初優勝ドライバーが誕生した。

パストール・マルドナド。ベネゼエラ出身。2010年にGP王者となり、2011年にウィリアムズでデビューを果たした。しかし、GP2時代から速いときは速いがムラがあるドライバーという評判だったことと、彼をスポンサードしたベネゼエラの国営石油企業PDVSAは、マルドナドのシート獲得ために、年間2900万ポンド(約37億4000万円)もの金額をチームに支払うことが暴露され、ベネゼエラ国会で問題となり、ウゴ・チャベス大統領が弁明に追われた。そのため、史上最高のペイドライバーとして扱われ、決してデビュー当時から周囲の評価は高くなかった。

しかし、過去7人のワールドチャンピオンを生んだウィリアムズの代表、フランク・ウィリアムズは「彼はとても速いしミスが少ない」と高く評価。2年目の2012年シーズンが開幕するとマルドナドは白眉の速さを発揮し、開幕戦では最終ラップにフェルナンド・アロンソとのバトルでスピンしてしまったものの、アグレッシブな攻めの走りは高い評価を受けた。そして5戦目のスペインGPで初優勝。チームにとっても2004年の最終戦ブラジルGP以来8年ぶりの優勝を獲得し、フランク・ウィリアムズの眼力は衰えていないことを証明したうえ、さらに、この週末70歳の誕生パーティをしたフランク・ウィリアムズに最高のバースデープレゼントを贈った。

1983年シーズンは、6戦目に6人目の勝者は現れなかったが、今年はルイス・ハミルトンやミハエル・シューマッハーなどモナコGPを得意とする6人目の勝者候補がまだまだ多いだけに、目が離せない日々が続きそうだ。(モータージャーナリスト・田口浩次)