2012年になって一気に頭角を現し、パドックはもちろん世界中から大きな注目を集めるようになった選手がいる。イギリス人選手のカル・クラッチロー(モンスター・ヤマハTech3/イギリス)だ。現在26歳のクラッチローは、2009年にスーパースポーツ世界選手権でチャンピオンを獲得。2010年にスーパーバイクへステップアップし、2011年からモトGPへやってきた。昨年の成績は12位。最終戦のバレンシアGPで4位に入り、来季の活躍を予感させた。

今年はプレシーズンから順調にテストを重ね、良い感触を掴んできた。が、チーム監督のエルベ・ポンシャラルは、その順調さにわずかな不安も感じていた。

「今のところカルは好調だが、この良いフィーリングがぬか喜びに終わらないかというのがやや気がかり。せっかく気分よくレースに臨みながら、その気分に成績が着いてこず、意気消沈することが昨年は何度もあった。だから、あまり高揚しすぎず慎重に開幕を迎えるよう本人には言っているのだが……」

だが、ポンシャラルのそんな心配は、良い方向へ裏切られた。モトGP2年目の開幕戦カタールGPは予選でフロントロー3番グリッドを獲得。決勝レースでも、ロレンソ、ペドロサ、ストーナーに次ぐ4位でフィニッシュした。第2戦のスペインGPでは事前記者会見に出席し、トップライダーたちとともに壇上で質疑応答を行った。

「昨年はチケットを買って入場していたのに、まさか今年は記者会見に出席するなんて」とジョークを飛ばして周囲を笑わせる余裕も。決勝レースでは期待どおり、ふたたび4位フィニッシュ。2週連続開催となった先週末のポルトガルGPでは、予選でまたもやフロントロー3番手を獲得した。決勝レースではストーナー、ロレンソ、ペドロサのトップスリーからやや離れたものの、チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾと競り合った。開幕戦と第2戦でも、クラッチローはドヴィツィオーゾと4位争いのバトルを繰り広げている。ドヴィツィオーゾは今年でモトGP5年目を迎える経験豊富な選手だが、チームメイトの好調さを訊ねられた際に「今年からマシンの排気量が1000CCになって、スーパーバイクに乗り慣れた彼のスタイルに合っているからではないか」と返答。これにクラッチローが猛反発した。「自分は一年かけてモトGPマシンに順応してきた。ロレンソに次いで、ヤマハのバイクを乗りこなせているのが僕なんだ」

一時はチームメイトの間で一触即発の緊張感も漂いかけた。決勝レースではそのドヴィツィオーゾと3度目の戦いになったが、今回は相手の勝ち。ドヴィツィオーゾ4位、クラッチロー5位でレースを終えた。

「悔しいけど、ポイントを獲得できて良かった。コーナー立ち上がりのグリップとブレーキングに問題を抱えていたとはいえ、言い訳はしたくない。今日のドビは素晴らしい走りだったよ」と、今日は敗れた身近なライバルに対し、潔くエールを送った。

2012年シーズンのダークホースとして、クラッチローは今後も大いにレースを沸かせてくれるだろう。(モータージャーナリスト・西村章)