昨年のサッカー女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会を取材する機会に恵まれて以降、「なでしこジャパン担当」として、彼女たちの姿を追い続けている。W杯期間中から徐々に盛り上がった熱は、準々決勝のドイツ戦勝利を境に一気に高まり、そのまま冷めることがない。今夏のロンドン五輪での金メダル獲得が期待されることはもちろんだが、彼女たちがサッカーに真面目に向き合う姿勢や個性あふれるプレーの数々のほか、特に高い技術で相手を手玉に取る壮快さも、その一因だろうと感じる。

W杯で知り合ったドイツの記者がこう語っていた。「男子のサッカーはだまし合いや駆け引きばかりが横行している。反則された選手が大げさに痛がって、時間稼ぎをしたりするのはその典型だ。一方で、女子のプレーは基本に忠実で、ピッチで勝負をつけようとする。純粋なサッカーの楽しさを思い出させてくれる」と。確かにスピードやぶつかり合いの迫力では、男子にはかなわないだろう。だが、サッカーの楽しさや面白さはそれだけではないはずだ。持てる技術をぶつけ合い、互いに持ち味を出し合って最後まで諦めずに戦う。そんなところは、男子以上かもしれないと納得した。

さらに、日本の女子選手の技術レベルは、W杯や2月末からポルトガルで行われたアルガルベ・カップで証明されたように、世界屈指の高さを誇る。W杯で世界に衝撃を与えたテクニックの確かさは、30年という長い時間をかけて培ったもの。なでしこジャパンの佐々木則夫監督が「他の国もそう簡単には追いつけない」と自負するほどだ。

国内リーグの「なでしこリーグ」では、そんな選手たちのひたむきで小気味いいプレーを堪能できる。MF沢穂希や大野忍、FW川澄奈穂美ら日本代表のスター選手を多数抱えるINAC神戸は、ことしもリーグの中心として強さを誇るだろう。スペインの強豪バルセロナを標榜するパスサッカーは簡単には止められない。だが、他のチームも指をくわえて引き立て役に回るつもりはない。中でも注目したいのが、王座奪回を目指す日テレ・ベレーザだ。

主将の日本代表DF岩清水梓、19歳のFW岩渕真奈を中心に、打倒INAC神戸の一番手と目される。昨季はリーグ、全日本選手権とも敗れて無冠に終わり、雪辱を期して今季に臨んでいる。最大の特徴は、各選手の高いボール扱いの技術。沢や大野をはじめ、なでしこジャパンを支える人材を長年にわたって輩出し続けたのもうなずける巧さが継承されている。

下部組織の「メニーナ」から足技を徹底的に鍛えられた生え抜きの選手たちが、持ち前のテクニックを駆使して、狭いスペースをこじ開けるように攻めるスタイルは、男子を含めても異彩を放っている。足の裏を巧みに使ったドリブルで相手選手の間をすり抜けたり、苦しい体勢からでも足の外側やかかとを使って繰り出されるパスで局面を打開したりと、自由な発想が随所にあふれる。その即興的なプレーは「サッカーって楽しいんだよ」と語りかけてくるようだ。岩清水が「狭いところに入っていくのは、うちの『味』ですから。それがなくなるとベレーザじゃない。まあ、手詰まりになることもあるんですけど」と苦笑するように、時として弱点にもなり得るが、そのこだわりぶりは一見の価値ありだ。

スペイン男子のバルセロナとレアル・マドリードのように、ライバル関係があってこそ、リーグは盛り上がる。昨年はINAC神戸の強さばかりが目立ったが、ことしはどうなるか。ロンドン五輪での活躍はもちろん、日本の女子サッカー界がさらに盛り上がるためにも、強い名門の復活は欠かせないと思っている。

日高 賢一郎(ひだか・けんいちろう)1976年生まれ。宮崎県出身。01年共同通信社入社。大阪支社運動部、広島支局を経て、07年から東京運動部。サッカーでは02年W杯でブラジル、11年女子W杯で日本と、男女とも優勝チームの取材を担当した。04年から10年まではプロ野球を担当。