天才の名をほしいままにしてきたバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)が苦悶している。2012年開幕戦カタールGPは、恒例のナイトレースとして行われたが、土曜の予選を終えてロッシの順位は12位。ファクトリーチームやサテライトを含む全プロトタイプマシン勢のなかでは最後尾で、自分より下はすべて量産車エンジンをベースにしたCRT(クレーミングルールチーム)勢、という屈辱的な位置で決勝を迎えることになった。

予選に先だつ木曜と金曜の練習走行では、セッション終了後の取材で開幕前から訴え続けてきたマシンの扱いにくさを繰り返したものの、改善の兆しもわずかながら見えたときには、「カウリングの中にライオンがいるんだ」と笑いをとる余裕もあった。モトGP二年目の選手が好調なタイムで走行していることを訊ねられた際には「彼とバトルしたいけど、今の僕にはちょっと速すぎるよ」と答える様子からは、精神的なゆとりのようなものもまだ窺えた。

だが、土曜の予選でタイムが伸びず、事実上の最後尾グリッドになったときには、その表情から笑顔が消えた。「昨日のセッティングに戻してから、タイムは少し良くなったけど順位を上げるまでには至らなかった。いつも抱えてきた問題が、さらに大きくなっている。(チームメイトの)ニッキー・ヘイデン)はマシンの変更がうまく進んで予選も5番手だったから、彼のデータと比較して、自分も変えられるところは変えてゆきたい。ニッキーと同程度のタイムは出せると思っていたんだけど…」と深刻な口調で語った。

そのヘイデンはというと、現状抱える課題に関する質問に対し「チャタリング(コーナーでのフロントの振動)もあるけど、アンダーステア(旋回時に大きく外へはらんでしまうこと)が最大の問題なんだ」とあっさり答え、ロッシ同様にマシンの扱いにくさを認めた。が、その状態でヘイデンのタイムは2列目5番グリッド。そして、本来ならばヘイデンより上位タイムが期待されているはずのロッシは、チームメイトから1秒落ちという現実に、事態の深刻さは明確にあらわれていた。

現地時刻4月8日22時にスタートした決勝レースでは、ロッシは10位でフィニッシュ。優勝したホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)から33秒遅れでドゥカティ勢でも最下位、という惨憺たる内容。レースを終えたロッシは、「(最新版の車体が完成すれば)事態が良くなるだろうという希望は、すでに去年で使い果たしてしまった。このバイクには乗れない。ドゥカティは、自分が示す開発の方向性にまったく耳を貸そうとしていない」と不満を露わにした。たしかに今のドゥカティは、戦闘力の面でホンダやヤマハより一歩劣る状態にあることは否みようがない。だが、それよりも深刻な問題は、ロッシがドゥカティ勢のなかで誰よりも遅いタイムで低い位置を走っている、という現実のほうだ。バレンティーノ・ロッシの2012年は、今までになく長いシーズンになるかもしれない。(モータージャーナリスト・西村章)