日本を含む世界の国々からトルコ1ヶ国をのぞき、国際的には国として未承認の主権国家がある。北キプロス・トルコ共和国。たとえば、日本政府の見解によれば、このような国家は存在せず、それは国際的に承認された独立国家であるキプロス共和国北部のトルコ軍実効支配地域を指す。近年、トルコ以外の世界の国々に国として認められていない北キプロスの「国旗」をトランクスに縫い付け、リングで戦い続けたボクサーがいた。トルコと同じ月と星が描かれた国旗。そう、昨年7月、ドイツでのウラディミール・クリチコ(ウクライナ)との世界ヘビー王座統一戦で敗れ、WBA世界王座を失い、31歳での早過ぎる引退宣言を行ったデビッド・ヘイ(英国)のことだ。

この最後の試合が、戦前の大言壮語にもかかわらず不完全燃焼の尻すぼみがちに終わったのと、さらには、今年2月のドイツで、ビタリ・クリチコ(ウクライナ)のWBC世界ヘビー級王座に挑んで敗れた直後のデレク・チソラ(英国)と公の席上で殴り合いになり、この不名誉な映像が世界中に配信されてしまったことで、ヘイが打倒クリチコ兄弟の最右翼として期待されていた事実や、ヘイの大風呂敷と表裏一体を成す向上心などまでもが見過ごされてしまっている現状は不公平かもしれない。

例えば、トレーナーのアダム・ブース氏の出自が北キプロスだったことから同地域を訪れ、世界最高の練習環境と絶賛して以来、ヘイは世界戦のリングに、彼の母国である英国も承認していない北キプロス共和国の国旗をトランクスに縫い付けて登場し続ける気骨ぶりを見せ、同国から市民権を授与されたほど。一方で、一昨年、アングリア・ラスキン大学から名誉博士号を授かったのは、2008年以降、同大学に拠点を置く医療研究機関に英国を代表するアスリートとして協力を惜しまなかった事実がある。

また、タトゥーが大流行の英国にあって、これを嫌う母親との約束を守り、決して墨を入れることもなかった。3月3日、ドイツのRTLテレビジョンでWBC王者ビタリは、現在引退中のヘイと戦う用意があると公言した。この機を逃さず「やってやるぜ!」とヘイはツィート。WBC本部は、この1試合のためだけにカムバックすると怪奇炎を上げるヘイのビタリ挑戦を「ありえない」と否定するが…(草野克己)