個人的に、美しいゴールとして記憶に長く残っているのは、得てしてシンプルなものが多い。その共通項を挙げると、次のようになる。(1)コンビネーションがある(2)ゴールに向かう迫力が感じられる(3)キックの精度が高く、シュートまでの一連のプレーによどみのない―などだ。

この手のゴールシーンで記憶に残っているものは、最近でいえば昨年1月のアジアカップ決勝、オーストラリアを相手に長友佑都の左からのクロスを李忠成が突き刺したダイレクトボレー。そして古くは(個人的には古い部類ではないが)1992年に日本が初めてアジアカップを制した広島での試合。カズ(三浦知良)が左から上げたクロスを、高木琢也が胸トラップから左足で決めた決勝ゴールだろう。

そのほかにも「とんでもない!」というゴールに度々驚くことはあるが、あまりにもトリッキーなゴールは、時の経過とともに僕の脳みその記憶容量からは、その複雑な過程は弾き出される。

美しいゴールといえば、2月29日に豊田スタジアムで行われたワールドカップ(W杯)ブラジル大会アジア3次予選C組の日本―ウズベキスタンで、ウズベキスタンが挙げた決勝ゴールもそうだった。

単純明快な教科書通りのカウンターだった。後半9分、自陣で香川真司のボールをカットした瞬間からウズベキスタンにスイッチが入った。中央をドリブルで持ち上がるキリチェフに呼応し、日本ゴールを全力疾走で目指したのは他に4人。日本の守備に戻った人数と同数だった。しかし、それをゴールに結びつけたのがプレーの質の精度の高さだった。右に展開されたボールをハサノフがクロス。ファーポストから走り込んだナシモフのダイビングヘッドは、一度はGK川島永嗣の驚異的な反応に防がれたが、そのこぼれ球をシャドリンが押し込んだ。

ウズベキスタンにこの得点シーンをもう一度再現してくれといったら、技術的にそう簡単ではないのかもしれない。それでも間違いなくこの場面での個々のプレーの精度は高かった。五輪代表の酒井宏樹のキックを彷彿とさせるハサノフの右足キック。内田篤人の視界に入らない背後からゴール前に飛び出したナシモフのヘッド。こぼれ球を予測してゴール前に詰めたシャドリンの忠実さ。そして自陣でマイボールにしたときに、迷いなくカウンターを仕掛けた5人の共通意識。選手たちのベクトルが同じ方向に向いていれば、複数の選手が心に響くハーモニーを奏でることも可能なのだ。

敗れた日本は、あくまでもオーソドックスなサッカーを展開するウズベキスタンに比べれば、攻撃に関してはテクニカルな選手が多いのは事実だ。ドルトムントで活躍する香川。この日、交代出場をしたボーフムの乾貴士は、所属チームでは小柄ながら大型選手揃いのドイツ1部リーグで狭いスペースを突破する技術でチームの大きなアクセントとなっている。相手の予想外のプレーをするのだ。しかし、そのプレースタイルをコンビネーション合わせの時間も限られる日本代表に持ち込んだ場合、どうだろうか。相手が予想もできないプレーというのは、得てして味方も欺くことがある。ボールの出し手の意思が受け手に伝わっていなかった場合、なんとなく出し手の狙いは予想できても、結果的にそれはミスということになる。相手の予想を覆すトリッキーなプレーというのは、あくまでもオーソドックスな、皆のベクトルが同じ方向を向くベースの上にちりばめるからこそ、より威力を発揮するのではないだろうか。

単純にゴールを目指すときには、手数をかけず相手ゴールに迫りシュートまで持っていく。観衆をアッといわせることに美徳を感じ始めているように見えるいまの日本代表に、あらためて言いたいのは、観客は局面での技術より、ゴールの瞬間を目にすることを期待しているということだ。そして単純にゴールに迫って来るプレーは、守る側にとってかなりの心理的プレッシャーになる。

19歳でA代表に初招集されたボルトンの宮市亮は、試合の展開的には投入は難しかったのかもしれない。それでも見てみたかった。彼のプレーは単純明快。ボールをまたぐテクニカルなシザースのフェイントも、相手を抜き去る前段階での局面での目くらまし。次の瞬間、DFラインの裏に抜け出ている。世界でも有数のスピードで相手DFをぶっちぎり、ゴール前にクロス。それを飛び込んだ選手がダイレクトで合わせたら、きっと記憶に残る美しいゴールが一つ増えただろう。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている