昨年末の深刻な状況からは脱したとはいえ、相変わらず強い懸念が続く欧州の債務危機は、レース界にも深刻な影響を投げかけている。2008年のいわゆるリーマンショックが引き金になった世界同時不況は、モトGPを頂点とする二輪ロードレースの世界に大きな経済的打撃を与え、スポンサーやメーカーの撤退、チームの運営規模縮小などの動きが相次いだ。なんとかして活動を継続しながら経済的に浮上する方向を模索している関係者にしてみれば、このユーロ危機は立ち直る契機すらつかめないところへさらに苛酷な難題と試練が襲いかかった格好だ。

決済用仮想通貨であったユーロが欧州連合の現金通貨として流通しはじめたのは、2002年。偶然ながらこの年は、2ストローク500CCから4ストロークのモトGPへと切り替わった節目のシーズンでもある。そして、この偶然は軌を一にするように、ユーロ加盟国は増加して欧州の景気は上昇局面に入り、モトGP人気も上昇して年間のレース開催数が増加の一途をたどっていった。現在、一年間に行われる18戦のうち、ヨーロッパのレースは12戦。なかでもモータースポーツ人気の高いスペインでは年4戦(ヘレス、カタルーニャ、アラゴン、バレンシア)、イタリアは2戦(ムジェロ、サンマリノ)が行われている。しかし、この興業形態も大きく見直される方向で、レースを運営するドルナスポーツ社は全18戦という開催数を維持しつつも将来的には欧州のレースを減らし、欧州外のレースを増加させる方向で考慮しているともいう。

さらに、スペインのレースに関しては、来年から現在の半分の年間2戦になりそうな気配だ、と一部では噂されている。消滅する候補に挙げられているのは、スペインGPの名称を冠して1980年代から連綿と開催されてきたヘレスサーキットと、1990年代からレースが行われているカタルーニャサーキット。ともにレースウィークには15万人から20万人の観客を集める人気コースだ。それだけ多くの動員数を誇る開催地でも、地元経済の深刻な不況の前には太刀打ちできない、というのが現実の姿なのだろうか。とはいえ、この両会場に関しては、レース主催者やサーキット関係者から正式な発表は行われておらず、あくまで「噂」や「推測」レベルの話にすぎない。

だが、現実に来年どころか今年のレース自体が開催可能かどうかの瀬戸際に立たされている会場もある。5月6日に決勝が予定されているポルトガルGPの開催地、エストリルサーキットは、2012年の暫定スケジュールが発表された際にも、最終合意に至っていない旨が注記されていたが、ここに来て本格的にその開催が危ぶまれている。欧州諸国のなかでも、ポルトガルの財政状況が芳しくない状況にあることは周知の事実だが、その懸念はスポーツ興業にも深刻な影響を投げかけているようだ。ポルトガルGPの開催可否に関しては、2月15日にも最終決定とその発表が行われるといわれている。はたして、どのような結論になるのか。本稿公開時にはおそらく結果が出ているはずである。(モータージャーナリスト・西村章)