ボール扱いをさせると、どの選手もが平均的にうまく見えた日本は、実をいうと周囲の評価ほど強くはなかった。そして、逆に技術的にそれほどうまいとは思えなかったシリアが強かった。なぜなら、そこで競われた勝負はボールテクニックの見栄えで勝敗を決める競技ではなく、サッカーだったから。つまるところ、そこに行き着く。

ここのところ順風満帆に見えた日本サッカー界に、久しぶりに危機感が漂った。2月5日、ヨルダンのアンマンで行われたロンドン五輪アジア最終予選C組第4戦。ここまで3戦全勝で首位を走っていた日本と、2勝1敗で2位のシリアとの直接対決は、1-1の同点から、シリアが終了間際にキャプテンのサリハがロングシュートを決めて劇的な勝利を飾った。これで日本は首位陥落。最終予選グループ1位が自動的にロンドンへの切符を手にするレギュレーションのなかで、日本の自力での予選突破は消えた。

まるで五輪出場権を手にしたように喜ぶシリアの選手たちとは対照的に、ピッチにへたり込む日本の選手たち。その姿から、日本の選手たちは敗れたことで、初めて事の重大性に気づいたようだった。

危うさの予兆はあった。昨年11月27日に東京・国立競技場で行われたホームでのシリア戦。結果として2-1で勝ったものの、流れ的にはシリアが勝っていてもおかしくない内容だった。ロンドンを目指す今回のU-23日本代表は、第2列目も含めた攻撃陣に多くのタレントを抱えているとよく言われる。ところが最終予選を通してのスコアを見ても、明らかに格下と思われるマレーシアにホームで2点しか奪えないなど、得点力不足は明白だ。というよりも、それ以前のシュートに対する意識が希薄すぎる。サッカーはボール回しではなく、点を取る競技だということは以前も書いた。一方のシリアは、モダンサッカーからは程遠い一昔前の戦術だろう。それでもサッカーの普遍のテーマである「点を取る」ということに関しては、より直截的だ。バーレーン、マレーシアが同居するC組の展開を予想すると、おそらく力関係からして、日本、シリアともに今後2勝を収める可能性が高い。そうなれば日本とシリアは5勝1敗の勝ち点15で並び、1位と2位を分けるのは総得点も含めた得失点差。日本の現在の得点力、ゴールに対する選手の意識を考えると不安要素はかなり大きい。

関塚隆監督率いる今回の五輪代表のスタートは順調に見えた。Jリーグの日程と重複する関係もあり、2010年11月に中国・広州で開催されたアジア大会には、Jリーグの控え選手を中心としたメンバーと、大学生で臨んだ。その結果、ベストメンバーではないにも関わらず、男子サッカー競技初の優勝。ロンドン五輪に向けて希望に満ちあふれたものだった。ところが五輪本番の年となった現在の状況を見てみると、1年3カ月の熟成期間があったはずなのにチームに大きな上積みはない。確かにメンバーの入れ替えによって、アジア大会時より個性は見えるようになった。しかし、それは清武弘嗣や酒井宏樹といった選手が個人的に成長したのであって、チームとして順調に成長しているかと問われると、大きな疑問符がつく。

大きな変化を好まない人。関塚監督を見ているとそんな気がしてくる。言葉の端々から伝わってくる生真面目さ。それは良い意味で解釈すれば安定感といえるのかもしれない。ただ、サッカーの五輪における位置づけを考えた場合、他の種目とは分けて考えなければいけないだろう。なぜならサッカーには、ワールドカップという唯一無二の世界最強国を決める大会がある。比べて五輪はといえば、オーバーエージ枠があるとはいえ、あくまでも23歳以下の大会。この年代で世界の舞台で思い切ったチャレンジをしないで、どこでするのだろうか。

アジアでの出場権を手にすれば、それだけでいいのだろうか。個人的に考えるには、もし出場権を手にしたとしても、いまのままではロンドン五輪には出場しただけで終わりそうな気がする。そう書いていて、ふと我に返ると、現在はそんなことをいうのもはばかれる状況なのかもしれない。5大会連続出場も怪しいからだ。もしグループ首位を逃して出場権を逃した場合、五輪出場の道はより険しいものになる。A組、B組の2位との3チームによるプレーオフを勝ち抜いた末に、アフリカ予選4位のセネガルとの大陸間プレーオフ。アジア予選以上に不確定要素は多くなる。

終わったことは仕方がない。ただ今後、選手やスタッフもこれまでの意識を大きく切り替える必要があるだろう。残り2戦で、マッチレースとなるシリアの選手が気力を無くすほどのゴールラッシュ。そこには美しさなんて関係ない。求められるのは結果のみだ。年が変わり、昨年までは大学生だったキャプテンの山村和也や比嘉祐介もプロを名乗るようになった。このチームにアマチュアはいない。一切の甘えは許されない。プロは自分でまいた種は、自分で刈り取らなければいけないのだ。

それにしてもうんざりするのは、この言葉だ。「ピッチの状況が悪い!」。そういう日本だって、Jリーグが始まる前までは、冬に緑の芝生があるのはゴルフ場だけだった。このフレーズを聞かされる度に、選手たちがなにか逃げ道を作っているのではないかと思えてくる。なぜなら、男女も含めたすべての年代のアジア予選で、アウェーでは確実に日本より悪いピッチコンディションでプレーするのは当たり前なのだから。いっそのこと、日本協会は国内に代表専用の悪いピッチを作ったらどうだろうか。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている