今年秋のプロ野球ドラフト会議での注目ナンバーワンは亜細亜大の東浜巨(なお)投手だろう。沖縄尚学高3年の春の甲子園優勝投手は亜大では1年生春からコンスタントに4~5勝を挙げ、3年間で26勝17敗、17完封はリーグ最多記録である。昨秋のリーグ戦で念願の優勝を果たし、東浜は文句なしにMVPに選ばれた。順調な成長ぶりにプロ球団の視線は熱い。

▽始動に8球団集まる

プロ野球と同じように、大学の各チームもトレーニングを開始している。東浜が新主将となった亜大野球部が始動した1月9日、東京都下の亜大グラウンドにはプロ8球団のスカウトが見に来た。一昨年は斎藤佑樹(早大―日本ハム)沢村拓一(中大―巨人)、昨年は藤岡貴裕(東洋大―ロッテ)野村祐輔(明大―広島)らがいたが、今年は注目選手が少ないだけに、東浜の争奪戦は激しくなるだろう。

東浜は150キロ前後の速球に加え、ツーシーム、カット、チェンジアップ、フォークと多彩な変化球を投げる。大学野球の中で実力トップといわれる東都大学リーグで、沢村や藤岡らと投げ合った経験なども生きてくるだろう。ただ、東浜の投手特有の頑固さに一抹の不安を感じている。

▽過度のこだわり

亜大・生田勉監督を“悩ませる"のが、東浜のピッチングへのこだわりである。悪いことではないが、過度になってはいけない。21歳の右肩はいくら投げても平気だろうが、コンディションづくりが中心になるシーズン中でも納得できるまで投球練習をやめない。試合前日にも200球以上を投げることもある。

昨年のリーグ戦は明らかに投げ過ぎからの疲れが見え、試合の中盤から球威が落ちるケースがあった。調整方法に問題あり、と思っている。このコラムで前にも書いたが、投手は「体力・技術のほかに孤独に耐えられるだけの強靭な精神力が求められる」“人種"なのだが、往々にして、納得行くまで投球練習を続けることになる。

▽あの江川も

それで思い出すのが名勝負と語り継がれる1983年の巨人―西武の日本シリーズ。西武が巨人を下して、西武の名を全国に知らしめた。巨人はエースの江川卓投手が1勝も挙げられず2敗したのが敗因だった。江川は第4戦に先発したが、太ももを痛めるアクシデントもあり、6回3失点で降板した。その江川は登板前日、なんと200球を超える投球練習をしており、これが下半身に大きな負担になったと思う。第1戦で負けていて、恐らく自分の投球を追い求めた結果なのだろうが、あの冷静な江川でさえ、こんなことが起きる。

レッドソックスの松坂大輔投手が投げ込み方法の調整を否定され、調子を狂わせたのは記憶に新しい。大リーグでは「肩・ひじは消耗品」という考えが徹底している。競技は違うが、1978年12月のアジア大会で、冬の日本から暑いバンコクへ来たのに、バトミントン女子のエースがハードな練習をやり体調を壊す姿を目の前で見た。練習量をこなさないと不安になるのだろうが、スポーツはコンディショニングの勝負だと痛感した。

▽休みも練習のうち

鍛えることは大切だが、時と場合による。「休みも練習のうち」ということも言われる。プロ野球界で長くやるには調整方法は大事なことだ。日本のスポーツはややもすれば精神面を重視する傾向があるだけに、選手は自分の意思を持たなければいけない。

さて、生田監督も性格のよさを褒める東浜は、教職免許を取るため、母校の沖縄尚学高への実習も予定されているそうだ。もちろん就職先はプロ野球だが、こんな一面を持つのが東浜である。

亜大野球部は月に1冊の読書と感想文提出が部員に義務づけられている。昨秋のリーグ戦最中、東浜に「今は何を読んでいる?」と聞いたら「ニーチェの言葉です」と答えが返ってきた。19世紀のドイツの哲学者の本は、格言に富んでいて結構若い人にも人気がある。今度、会ったら読後感を聞いてみようと思っている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸男」(共著)等を執筆。