新年早々、とてもいいものを見た。元日にスタジアムに足を運んだ人も、テレビの前で観戦した人も、そう思ったのではないだろうか。

プロとアマチュアが混在する、日本で最も歴史のあるオープントーナメントの天皇杯は、真の意味での日本一を決める大会だ。 東京・国立競技場で行われたFC東京と京都サンガの決勝戦は、サッカーの持つ美しいテイストを十分に発揮した試合だったのではないだろうか。

Jリーグが発足して以来、初めてトップリーグではないJ2チーム同士の決勝戦となった。試合前はレベルが落ちるのではないだろうかという風評もあった。しかし、ふたを開けてみれば、そのような心配は杞憂に終わった。それどころか、J1同士の試合では味わえないような心に響くものがあった。

なぜだろうか。おそらくこの試合はFC東京、京都ともに、タイトルを取りにいったからだろう。FC東京は来シーズン、戦いの場をJ1に移すが、この試合までは肩書きはJ2である。京都もそうだが、J2のチーム、そして選手のほうがJ1に比べて自らのレベルを上げたいという欲求が、はるかに強いのではないだろうか。だからタイトルは「取りにいくもの」になった。もしこれがJ1同士の試合だったら「タイトルを逃さない」ための試合が行われて、案外つまらないものになっていたかもしれない。

J2から昇格したばかりの柏レイソルの史上初のJ1制覇など、2011年シーズンは“J2旋風"が吹き荒れた。天皇杯での本気度も含めて、J1勢は情けないというか、かなり格好が悪かった。だからといってJ2のレベルがJ1の上位に肉薄しているかというとそれはあり得ない。試合後に「J2すごいよね」との報道陣の質問にFC東京のキャプテン今野泰幸が「レベルはJ1のほうが高いです」と、冷静に、当たり前の受け答えをしていた。

確かにこの試合、特に守備面で個人の技術や戦術眼の未熟さが露呈した場面があった。J1の上位レベルでは、めったに見られないミスだ。それでも最後まで見る者の心をひきつける内容になったのは、お互いが攻撃的なサッカー、次のゴールを狙うサッカーをやった結果だろう。

その魅力的なサッカーを披露してくれた両チームのイレブンの中からMVPを選ぶとしたらFC東京のルーカスだろう。天皇杯決勝の2日後の1月3日に33歳となるベテラン。このブラジル人は、とにかくサッカー頭脳の偏差値が高い。言い換えればサッカーをよく知っている。

点取り屋でありながら、守備にも献身的。エゴむき出しのプレーが多い外国人ストライカーがいるなかで、それとは対極の選手といえる。技術、戦術眼、サッカーに取り組む姿勢と、日本人選手のお手本としてはこれ以上ない存在だ。

ルーカスのすごさは、予測力だ。この日の2得点は、まさに象徴的だった。42分のFC東京の3点目となるシーンでは、京都GK水谷雄一のキックの落下地点を察知すると、マークする京都DF安藤淳より一瞬先にダッシュ。GKとの1対1との場面を作り出し、確実に右足で決めた。その裏には長身の高橋秀人がヘディングで競り勝つだろうとの未来予想図があったと思われる。さらに4点目となる後半21分の場面では、左サイドの椋原健太のグラウンダーのクロスを、あえてダイレクトで打たなかった。そこにはDF福村貴幸がスライディングしてくるという予測があったはずだ。相手の動きを見透かしたようにボールを左に持ち出したところで勝負あり。あとはGKをかわして、タイトルを決定づけるダメ押し点を挙げた。

2000年にはロナウジーニョとともにブラジル五輪代表としてシドニー五輪を戦った。フランスのレンヌでは実力を出し切ったとはいえなかったが、日本は水があったようだ。2004年から07年までFC東京に所属し、J1で120試合に出場し48得点。08年から10年は ガンバ大阪で80試合に出場し21得点。さらにガンバではACL優勝と2度の天皇杯制覇も果たしている。選手生活の成功の大半を日本で成し得ていた。

そのルーカスが母国ブラジルのアトレチコ・パラナエンセに戻り引退したとの報があったのは昨年の5月。ブラジルサッカー界によくあるゴタゴタに嫌気がさしたとのニュースだった。しかし、彼はまた日本に戻ってきた。J2シーズンの立ち上がりに苦しんでいたFC東京を救うために。結果的にFC東京のルーカス獲得はJ1、J2を含めて昨年の日本サッカー界のなかでも最高の補強だったのではないだろうか。J2での23試合出場9得点の数字以上に、チームに与えた影響力は大きかった。

「一回引退したにも関わらず、こういう喜びを味わえてうれしい。引退していたにも関わらず、自分を信頼して契約してくれたことに感謝して いる」。 満面の笑みを浮かべて話す“男気の人"ルーカス。そういえばルーカスは、いつもにこやかに笑っているような気がする。

J2降格以前は、優秀なメンバーが揃っているのに、何かが欠けているような気がしたFC東京。その「何か」が1年の時を経て、この日、埋められたような気がしたのは僕だけだろうか。

とにもかくにも、FC東京のサポーターや関係者の皆様、おめでとうございます。そして、見る者を飽きさせない攻撃サッカーと新しいタレントを披露してくれた京都のサポーターや関係者の方々にも感謝します。最後はあえて苦言です。しっかりしてくれJ1勢!

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている