女子柔道57キロ級の現世界女王、佐藤愛子(了徳寺学園職)がかなり弾けた柔道家になってきた。旭川南高時代から亀の飼育に精を出し、ちょっととぼけたようなところのある人だったが、28歳というベテランの域に達し、柔道にこの人らしさがにじみ出てきている。

12月9~11日に行われたグランドスラム東京では、決勝で昨年の世界王者・松本薫(フォーリーフジャパン)に敗れ、ロンドン五輪代表争いは五分となるも、試合後のコメントがふるっていた。

「負けちゃいました。ん〜悔しいことは悔しいけど、でも、今日はなんか1日つまんなかったな。全然試合が楽しくなかった。あ〜あ」

聞けば、来夏のロンドン五輪を最後に引退することを決めていて、この大会も今年で最後だから思い切り楽しみたいと思っていたとか。ところが期待通りに試合を満喫という運びにはならなかったようだ。

楽しめなかったのは、海外勢のマークが厳しくなって作戦がはまらなかったからか。そう尋ねられると「ん〜。今日はノープランでした。あ、いつもノープランなんですけどね。世界選手権だってノープランでした」。

この答えをまともに受け取ってはいけない。もともと相手に合わせた作戦を練りに練って臨むタイプ。「いつもノープラン」であるはずがない。わかりやすい例は、世界選手権の団体戦決勝だ。右手で奥襟を狙うフランス人選手に対し、佐藤は左手を上方にかかげ続けて、その奥襟を阻止する奇抜な組み手を実行してみせた。正攻法を好む日本柔道にあって、前代未聞の戦法だった。

「あの相手にはあの組み手で勝ったことがあったからやったんです。でも結局、試合には負けちゃったからダメでしたね」

この風変わりな組み手はかなり不評をかい、指導陣にはこっぴどくしかられたそう。だが本人はちっともめげていない。

「私は技が切れるタイプじゃないし、いろいろ考えて柔道しなければ世界で勝つことなんてできない。嫌われたってなんだっていいんです。ロンドン五輪で金メダルを取るためには何を言われようと自分がやりたい柔道を貫きます」

悪役志願? いや、てらいのない素直な気持ちだろう。こんなキャラクターが生き生きと選手生活を送るのが現在の日本の女子柔道だ。その個性炸裂ぶりに、日本女子全体の活気の理由を見る思いがする。(スポーツライター・佐藤温夏)