この国では絶滅危惧種と思われた真の点取り屋。日本にもこのようなスケールの大きいストライカーがいるのかと、改めて思わせてくれた瞬間だった。

前半37分、左サイドのゴールライン際まで侵入した橋本和のバックパスを田中順也が受ける。ボールは一度オークランドDFとのイーブンボールになったが、それを力ずくで奪い取り、相手を体でブロックして時計回りに反転。ライン際まで持ち込むと迷いなく左足を振り抜いた。

▽心に響く豪快さ

3年ぶりに日本に開催権が戻ってきたFIFAクラブワールドカップ。そのオープニングゴールは、久しぶりに胸のすくようなシュートだった。

しかも、それを決めたのは日本人。このところの日本代表や五輪予選を戦うU22日本代表の試合を見て、ちまちましている印象を受けていた身にとって、この豪快さは、単純ではあるが明快なだけに、より心に響くゴールだった。

▽得点への強い意識

確かにサッカーの得点は、ボテボテのボールでもゴールマウスに吸い込まれさえすれば1点だ。しかし、人々の印象に残るゴールというのは強烈なシュートのほうが多い。

なぜだろう。おそらく豪快なゴールというのは、シュートを放つ前からプレーヤーがより得点を強く意識していることが多いからではないだろうか。それは見る者にも伝わってくる。たまには出合い頭に打ったシュートが激しくゴールネットを揺することもあるのだが。

▽コンビプレーが日本での美徳

日本人は得てして形にこだわりやすい。それはサッカーにおいてもだ。繰り返し練習したパターンでゴールを奪う快感。それも分からないではない。チームのみんなで積み重ねた形を、ゴールという最終目標に結実させる。

指導者にしても選手にしても自分たちのやってきたことが間違いではなかったと満足感を得られるだろう。特に周囲の人を思いやる文化が美徳とされる日本では、喜びの手柄を複数で分かち合えるコンビプレーでのゴールのほうが重んじられる傾向にあるように思われる。それは少年サッカーでもだ。

▽希薄なフィニッシャー意識

ただ、パスの本数が多ければ多いほど、ミスの可能性が増えるのも事実だ。それ以上に、シュートに対する選手の責任感の意識が分散されてしまう。

Jリーグでも相手ゴール前でパスをつなぐのはいいが、送られてきたパスに対して、無理な体勢から慌ててシュートを打ってゴール枠をボールが大きく外れるシーンをよく目にする。

それは自分がフィニッシャーだという意識が希薄だからだろう。パスを回せば回すほど、シュートミスの責任の比率は軽減されるのかもかもしれない。なぜなら「お前だって打つタイミングがあったじゃないか」という言い訳ができるからだ。でもそのような考えでは、本当に迫力のあるストライカーは生まれてこないだろう。

▽打たないなんて「すごい!」

現役時代は日本のみならず、アジアでも有数の点取り屋として鳴らしたストライカーだった、日本サッカー協会の原博実技術委員長と日本人ストライカー論になったことがある。話題に出たのは、ジェフ市原(現千葉)や横浜マリノス(現F・マリノス)で活躍した城彰二氏。彼がスペインのバリャドリードに移籍した直後の1999-2000シーズンの試合についてだった。

ディポルティボ戦で相手GKと1対1になった城氏が、自らシュートを打てるにも関わらず、シュートを打つことなくビクトルに横パスを送るシーンがあった。結果的にビクトルがシュートを決めて得点になったわけだが、この試合を現地で見ていた原さんは、試合後にディポルティボのコーチからこう言われたそうだ。「すごい!」と。そして続いて出た言葉が「あそこでシュートを打たないスペイン人は一人もいない」とも。

▽世界基準に沿ったシュート

原さんによれば「GKと1対1になりながら横パスを出すというのが、スペイン人の感覚にはなかったプレーだから評価されただろう。でも逆に言えばそれはスペイン人にとってはストライカーではない」とのことだった。

よくテレビの解説などで耳にする「世界基準」という言葉がある。 世界基準のストライカーとは、相手DFの股を抜いたシュートであれ、ゴールを狙う選手だろう。その意味で柏レイソルの田中が強引にゴールを奪いにいったプレーは世界基準に沿ったものだった。

▽シーズンベストも田中の左足から

「角度がなかったけど、狙ってよかった」。本人は試合後にこう語っていたが、スタンドやテレビで見ている以上にシュートコースは限られていたはずだ。

通常の日本人の感覚ではセンタリングを狙うポジション。それでもあえてニアポスト際のピンポイントの空間を狙い、その穴にボールを通した田中のプレー。得点を狙う意識と技術の高さに新鮮な感覚を覚えた。

2011年J1リーグ。第18節のヴァンフォーレ甲府戦で放った35メートル超のロングシュート。右サイドからファーポストを直撃してネットに突き刺さった弾丸シュートは、シーズンのベストゴールの一つだった。この得点を生み出したのも田中の左足だった。

▽姿重なる“ドラゴン"久保

田中というストライカーを見て、その姿が重なる選手を思い出した。かつてサンフレッチェ広島や横浜F・マリノスで活躍した“ドラゴン"久保竜彦だ。同じ左利き、手足の長い体型も田中とよく似ている。

ドラゴンはジーコ・ジャパンのエースとして期待されたが、持病の腰痛のため2006年ワールドカップ・ドイツ大会を棒に振った。それでも2004年4月28日のプラハで、チェコの世界的名GKペトル・チェフから奪った独力での突破からのスーパーゴールは、いまでも瞼に焼き付いている。

▽2014年のピッチで見たい

形こそ違え、この日、オークランドから奪った独力での田中のファインゴールはドラゴンを彷彿とさせた。日本人離れしたスケールの大きさと、ゴールへの意欲は私好み。そう感じた人も多いのではないだろうか。

W杯3次予選では、ザック・ジャパンに追加招集されたこともある田中。その24歳に、さらに迫力を増して2014年のブラジルのピッチに立ってもらいたいと思うのは、僕だけではあるまい。やっぱりストライカーは、得点という目に見える結果だよ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。