サッカー観戦の喜びに占める大きな要素、それは選手と見る側の思考がシンクロすることだろう。数種類のプレーの選択肢があるなかで、選手が次に繰り出すプレーと自分の考えとが一致した瞬間。観戦している側の心が、よりピッチのなかに引き込まれていく。

▽気持ちではメッシ

実際はボールをうまく蹴ることさえできない人でも、思考の中ではメッシのように自在にボールを操れる。だからサッカーという競技は、ピッチでプレーするお気に入りチームの11人のなかに多くの人たちの考えが入り込みやすい。

野球のように、打った後で走る方向が決まっているわけではない。どのプレーに対しても、絶対的な正解があるわけではない。それぞれのファンの思考の中で多くのプレーヤーが生まれ、監督が生まれる理由はここにある。

▽予想覆される、喜びと落胆

選手たちと思考が一致することの喜び以上の喜びがある。それは良い意味で、予測を覆されることだ。

「えっ!」と思わせる予想外のプレー。 そんな駆け引きが繰り出された場合、大抵は相手選手もその罠にはまっている。胸の空く瞬間だ。

一方、悪い意味での予測を覆されることもある。得点のチャンスがあるのに、シュートを打たないことだ。

シリア戦のU22日本代表の試合は、まさに後者だった。記者席のあちらこちらから漏れる「なんで打たないの」というタメ息。「あなたたち は点を取りたくないの」「勝ちたくないの」と思わせる試合だった。

▽理にかなったシリアのプレー

そんな日本とは逆に、多くの人たちの予測と一致したプレーを見せたのはシリアだったのではないだろうか。

チャンスには、けれんみなくシュートを放つ。サッカーがより多くのゴールを奪ったチームが勝つゲームだということを考えれば、シリアのほうが理にかなったプレーをしていた。

事実、シュートをセーブする回数が多かったのは、シリアGKアルマではなく、日本のゴールを守った権田修一だった。

▽大迫にはあえて苦言

がっかりさせられたのは前半10分だった。大迫勇也が左サイドから中にカットインした場面だ。ゴールを期待された1トップ、ストライカーの大迫だからあえて苦言を呈すが、あの場面は強引にでもシュートを狙いにいって欲しかった。

しかし、大迫が選択したのは右サイドに開いた 山田直樹へのパス。それも相手DFに簡単にカットされた。DFは3人そろっていたが飛び込める距離ではなかった。内側にカットインすればDFとDFの間に必ずシュートコースが見えるはずだ。

ところが大迫の体の向きは、初めから右側にパスを出す角度。シュートを打てる向きではなかった。GKに脅威を与えることすらせず、相手DFに簡単に読まれてインターセプトを許した。

▽希薄に思えるシュートへの意識

これは大迫に限らず日本のFW全体にいえることだが、シュートに対する意識がとても希薄に思える。

確かにストライカーだからといって、むやみやたらにシュートを打てばいいというわけではない。それでもシュートを打つ素振りがあるからこそ相手はそこに気を取られ、意表をついたラストパスも有効になるのだ。

それを考えればシュートを打つということが第一選択肢になければ、優れたストライカーとはいえない。

▽技術は高くなっても

確かにアジアのなかでは日本人選手の足もとの技術は高くなった。ところが、その技術で各年代のアジア最終予選に出てくるレベルの国を圧倒できるか、といえばそうではない。

関塚隆監督も「サッカーを成長させるためには綺麗さもあるが、守れて点を取るということも、同じように推し進めていかなければならない」と語っていた。

▽美しさだけでは戦えない

技術を生かしたコンビネーションと美しいパスワーク。そこに荒々しくゴールを守り、点を貪欲に狙っていくというサッカー本来の、単純ではあるが原点を組み合わせていかなければ、世界で戦ってはいけないだろう。

そして世界を見回せば、美しく強いサッカーをやる国のなかにも必ずゴール最優先主義の選手がいる。たとえばスペインのビジャなんかがいい例だろう。

終了間際の86分、左サイドの比嘉祐介のクロスを大津祐樹が合わせたダイビングヘッド。決勝点は美しい展開からのゴールだった。そして、この日の日本の勝利には運があったと思えた。

▽にわかに芽生える大きな不安

グループCで2勝同士の直接対決を制した日本。アドバンテージを得たのは確かだ。ところがシリアというチームを実際に目にしたあと、これが安心できるリードかと問われると、大きな不安が芽生えてきた。

アウェーにもかかわらず、これまでの守備を固めた中東のチームとは異なり、シリアは攻撃的に真っ向勝負を挑んで互角以上の内容を見せた。ハンカン監督の「勝てなかったが、勝ちに近い内容のサッカーができた」というのは、強がりでもなんでもないだろう。

▽しびれそうな、アウェーのシリア戦

これまでのアジア予選なら、得失点差で中東のチームに大きな差をつけてきた日本。今回に限っては、その期待も薄い。

あまり点の取れない日本と、得点力の高いシリア。ロンドン五輪への道は、この2カ国のマッチレースとなりそうだ。それを考えるとアウェーでのシリア戦は、かなりしびれる試合になるだろう。立場がひっくり返ることも十分にあり得るからだ。

▽永井投入もあったのでは?

惜しむらくは、なぜ1点をリードした早い時間帯で、永井謙佑を投入しなかったかということだ。

シリアが同点を狙って前掛かりになった最終ラインの裏のスペースを、驚異のスピードを持つ永井だったら易々と切り裂いただろう。

追加点を重ねていれば、もっと楽な展開になったはずだ。その点については、関塚監督の思考と、自分の思考がシンクロしなかったと思っている人も多いのではないだろうか。まあ、サッカーには絶対的な正解があるわけではないから、仕方がないけれど…。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。