柔道の講道館杯体重別選手権が11月12、13日に開かれ、ロンドン五輪への新シーズンが本格スタートを切った。大会には今年の世界選手権代表16人が出場したが、優勝したのは女子78キロ超級の田知本愛(ALSOK)だけ。男子の篠原信一、女子の園田隆二両監督は「情けない」と切り捨てたが、負けた選手たちの態度は拍子抜けするほどあっさりしていた。

例えば、男子60キロ級の平岡拓晃(了徳寺学園職)。準決勝で高校生に敗れたが「とにかく今回はケガなく終われたことが一番良かった」と無事に試合を終えたことにほっとした様子。女子57キロ級で2位となった松本薫(フォーリーフジャパン)は「今回は自分を見つめる大会。結果はべつに気にしていません」。昨年の世界選手権覇者のこの人は、日頃は恩師に「野獣」と呼ばれるほど勝利への執念をたぎらせている人なのに、まるで別人のようなさわやかさである。これはいったいどういうことか。

大きいのは過酷なスケジュールの問題だ。選手は2009年に導入された世界ランクの順位を維持、確保するため、1年に3〜4回は国際大会に出場し、その合間に国内大会や強化合宿をこなすハードな日々を送っている。このため選手はケガを治療したり、じっくり稽古する時間が慢性的に不足。平岡や松本が「勝ちにこだわらない」という態度で講道館杯に臨んでいたのも、とても万全とは言えないコンディションで、おいそれと優勝など目指す状態ではなかったからだ。

代表選手を抱える所属先からはこうした全柔連の強化方針に「選手の身体はいつもボロボロ。そんな状態で常に試合に出たり、練習させても意味がない。強制参加の大会や合宿を絞るべき」と不満の声が上がっている。しかし、全柔連は「試合数をこなせるタフな人材こそ世界で結果を残す」として譲らない。どちらももっともなところがあるだけに着地点は探りにくいのだが、当事者である選手としては、現状では「多少の無理をしてでもとりあえず試合には出る」という選択をするしかないのである。

世界ランク導入後、初めての五輪となるロンドン大会に果たしてどんな選手が生き残るのか。各階級たった一つの代表枠を巡り、サバイバルが始まっている。(スポーツライター・佐藤温夏)