Jリーグでは、あまり感じることのないホームとアウェイの違い。それは日本のスタジアムが、どこに行っても安全だからなのかもしれない。

▽テリトリー内での内弁慶

ホーム以外のユニフォームを着ていたら「身の安全」は保障しません…。海外に行くと、危険とまではいわなくとも、それに近い思いをすることがある。イタリアでユベントスのお土産袋を持ったままトリノから ミラノに移動した直後、インテルのユニフォームを着た刺青入りのお兄さんに唾を吐きかけられたことがある。

相手の縄張りにいるときはあく までも控え目に。でも自分のテリトリーに入ったら、かなり強気。良い意味で、どの土地に行っても画一的な日本に比べ、地域ごとの風習や考え方に違いのある海外では、敵地に入り込んだ場合と地元にいるときの表情を、より鮮明に使い分ける。いわゆる内弁慶的な傾向がとても強い。

▽ホームで見せた違う表情

かなり格下と思われたタジキスタンも、やはりそうだった。10月11日の大阪では、まるで無抵抗主義者のようだった中央アジアの新興国。もしかして高校選手権の優勝チームより弱いのではないかと思わせたチームは、ホームのドゥシャンベに戻るとまったく違う表情を見せた。

パス回しという日本の特徴を削ぐ荒れたピッチを味方に、地元の大声援を受けて予想以上に攻めに出てきた。第1戦ではほとんど見られなかった前線からのプレスに、思い切りのいいロングレンジからのシュート。

個々の技術では日本の選手にかなり劣るものの、失うもののないチームは、一発、番狂わせを起こしてやろうという気概に満ちていた。

▽うまいチームが勝つわけではない

サッカーとは面白いもので、うまいチームが必ず勝つものではない。確かにうまいチームは試合の主導権を握る。だが、試合の勝敗を決するのは奪ったゴールの数だ。

回数こそ多くはないが、この日のタジキスタンはゴールを奪う可能性を見せた。31分のD・ワシエフのパナルティエリア右外からのミドルシュート。右足で放たれた強烈な一撃はゴールポストを直撃したが、あれが決まっていたら、日本の試合運びは難しいものになっていただろう。

▽閉塞感、打破した今野

第1戦の8-0の爆勝があっただけに、見ている人はフラストレーションが溜まったに違いない。その閉塞感を打破したのが、普段は縁の下の力持ち的な存在のセンターバック(CB)今野泰幸だった。

J2を戦う今シーズンこそ1得点に終わっているが、J1では通算260試合出場で32ゴールと決して得点力が低いわけではない。

いやボランチやCBのポジションを務める選手としては逆に高い決定力を持つといえるだろう。その今野が日本代表54試合目にして、やっとという感じの国際Aマッチ初得点だった。

▽自らつくった得点チャンス

取るべくして取った。いや、取らせてやりたかったと思わせるシーンだった。

得点に至る一連のプレーは、今野自身のボール奪取から始まった。36分、左サイドで相手のボールをスライディングして奪うと、空いた前のスペースに。日本の攻撃が一度は手詰まりになった場面で、今野には本来のポジションに戻る時間があった。

しかし、彼は前線に踏み止まった。そしてMF長谷部誠のパスを受けて放った中村憲剛のシュートがGKトゥイチェフに弾かれ、ボールは目の前に。今野は思い切り右足を振り抜くだけだった。

▽持ち味は速さと「奪い取る」能力

結果的に4-0の快勝。その口火を切ることとなった貴重な先制点。今野が試合後に語った「最高にうれしいです」という言葉に含まれた喜びは、誰の心にもダイレクトに伝わってきたのではないだろうか。

ザッケローニ体制になってから、唯一の全試合となる17試合にフルタイム出場。今野の持ち味は、強靭な肉体を生かしたボールへの寄せに速さとボール奪取能力だろう。

その才能は2003年UAE(アラブ首長国連邦)で開催されたFIFAワールドユース選手権(現U-20ワールドカップ)でも際立っていた。

この大会で日本のキャプテンを務めた今野はボランチとしてプレーし、ベスト8入りに貢献。若い時期から1対1でボールを奪う能力には目を見張るものがあった。

▽カード破産は心配なし

相手に強烈に当たりながら、ボールを奪う。DFやボランチのポジションを務める選手にとって避けられないのは、警告や退場、カードの問題だ。

ところが驚くことに今野は日本代表で出場した54試合(先発34試合、交代出場20試合)で警告を受けたのは、わずかに1回しかない。これはある意味で奇跡的な記録だ。

それだけ正当な技術でボールを奪うことができるのだろう。監督にとってみれば“カード破産"の心配のないDFは、これ以上にない宝といえる。常に計算できる選手が、出場停止の心配もなくキックオフを迎えられるからだ。

▽世界の潮流は大型化

2010年のワールドカップ南アフリカ大会でコンビを組んだ、中澤佑二と田中マルクス闘莉王のCBの2人は、これまでの日本サッカーの歴史を見れば奇跡の組み合わせといえた。

世界に比べて日本がこれまで最も劣るといわれていたCBのポジション。ここに長身でヘディングが強く、フィジカル的にも海外の大型選手にまったく臆することのない選手が2人同時に揃うのは、これまでないことだった。

世界の潮流を見ても、このところのCBの大型化は顕著だ。190センチの選手が普通になってきている。

▽「小柄」な今野を重用するわけ

その流れに反してザッケローニ監督は、CBとしては小柄ともいえる178センチの今野を重宝する。

それはなぜなのだろうか。思い返すとザッケローニはイタリア人。そういえば1990年W杯3位、1994年W杯準優勝に輝いたときの“アズーリ"(イタリア代表の愛称)のCBにはフランコ・バレージがいた。

ACミランでも世界を席巻した最高のリベロ、バレージの身長は176センチだった。だからザッケローニもCBの身長をあまり気にしないのだろう。トップには長身の選手を置くのが好きなのに。

▽「アジアのバレージ」誕生に期待

とはいえCB経験の決して長くない今野がバレージの域に近づくには、さらに多くのことを学び、経験するしかない。判断力、ラインコントロールも含めてだ。その延長線上に「アジアのバレージ」が誕生したら、日本にとってこれ以上心強いことはない。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールド

カップの取材を行っている。