レスリングでロンドン五輪を目指すと宣言し、実際に行動に移した元柔道の世界王者にして総合格闘家の泉浩(プレシオス)が、11月19、20日の全国社会人オープン選手権にエントリーしなかった。優勝者には12月の全日本選手権への出場資格が与えられる。泉が五輪を目指すとしたら、この大会に優勝し、全日本選手権に出場して最低でも2位に入ることが必要だった。

エントリーしなかったということは、五輪の夢をあきらめたということだろう。総合格闘技の衰退により、あらゆる闘う気持ちがなくなったようで、9月には柔道の先輩の小川直也に引退のあいさつをしたとも報じられている。

泉のレスリング挑戦が売名行為だったとは思わない。レスリングの全日本合宿では真剣に技術を学んでいたし、筆者が「アントン・ヘーシンク(東京五輪柔道金メダリスト)も、レスリングの世界選手権(1958年)で6位入賞しているんですよ」と教えてやると、「そうなんですか!」と目を輝かせていた。柔道世界王者の彼ならやるかな、という気持ちもあった。それだけに残念である。

同時に、オリンピックの壁の高さを痛感する。総合格闘技の衰退が一因というのは間違いあるまいが、1大会出場してみて埋められないギャップを感じたこともあると思う。

もし7月のレスリング挑戦でまあまあの内容を残していたら、この夢だけは追ったかもしれない。そんな内容ではなかった。闘った相手は全日本のトップ選手ではない。しかし「レスリングを始めたばかりの選手には負けたくなかった」と闘志をむき出しにしていた。もっと上のレベルの選手なら…。

山本KID徳郁がレスリングに復帰挑戦した時、受けて立つ全日本王者は「負ける気なんてサラサラないですよ」と吐き捨てた。そんな意地と実力を持った選手が最高レベルで切磋琢磨しているのがオリンピック競技。トップ選手の意地は半端ではない。

泉のレスリング挑戦断念を残念に思う半面、オリンピック競技のすごさと過酷さを多くの人に知ってほしいと思う筆者としては、これでいい、という気持ちにもなった。(格闘技ライター・樋口郁夫)