大学野球の投手ビッグスリーの1人、東海大の菅野智之投手は「巨人単独指名」を信じて疑わなかっただろうし、伯父に当たる巨人・原辰徳監督も「まさかくじ引きになるとは思わなかった」と正直に話している。

だから、日本ハムが巨人と競合して菅野を指名し、交渉権を獲得した瞬間、巨人関係者は凍り付いた。まだ記憶に新しい、10月27日のプロ野球新人選手選択会議、いわゆるドラフト会議でのことだ。

▽「道義的に~」には賛同できない

菅野が1年間浪人してでも巨人を目指すのか、日本ハム入り決断するのか、いずれにしても「いばらの道」が待ち構えていることになるだろう。ビッグスリーの藤岡貴裕(東洋大、ロッテ1位)と野村祐輔(明大、広島1位)両投手と対照的な結果に、率直に「かわいそうだ」と感じた。

だが一方で、「日本ハムが道義的におかしい」という指摘には賛同できない。ドラフト制度とは、まさしくそういうものだからである。

▽「沢村単独指名」は他球団の敗北

私はドラフト当日、他球団がどんな思いで日本ハムの菅野指名を見ていたかに思いをはせていた。1年前のドラフトで巨人が獲得した沢村拓一投手の姿が頭に浮かんだ。

今季、沢村は11勝した。誰もが認めた実力のある即戦力投手なのに、易々と巨人の単独指名を許した。チーム強化の根幹を担う他球団スカウトたちにとって、ある意味敗北ではなかったろうか、と。

▽かつての西武を思わせるドラフト戦略

もちろん球団の戦略や事情は種々あるだろうが、この結果を反省しなければ、とてもいい球団などつくれるものかと思った。

日本ハムは昨年のドラフトで人気抜群の早大・斎藤佑樹を取り、今年は実力派の菅野の照準を合わせ、7位には硬式野球の経験がない早大ソフトボール部の大嶋匠捕手を指名した。

情報網を駆使する、かつての西武を思い起こさせるようなドラフトを展開した。

▽思い起こされる「KK」ドラマ

その西武と巨人が激突したのが、ドラフト史上で今も語り草となっている1985年11月の「KKドラフト」だった。

KKとはもちろん、当時「超」が付く高校球児だった学園の清原和博と桑田真澄両氏のこと。この2人の獲得をめぐって、類い希なドラマが展開された。

清原氏の希望は巨人一辺倒だったが、複数球団の指名が予想された。一方の桑田氏は早大進学を公言。だが、それを疑っていたのが西武球団管理部長の故根本陸夫氏だった。

▽巨人揺さぶった清原指名「公言」

西武のドラフト戦略はいつも極秘なのだが、この年に限って「清原を指名する」と公言した。各社記者は戸惑った。「何があるのか」というわけだ。

それこそが根本氏の狙いだった。遊軍記者だった私に、根本氏は「巨人のKK2人取りは阻止する」と言った。巨人の思惑は「清原をくじで引き当てた後に2巡目以降で桑田を指名」だった。だが、それはさせないというのである。

巨人は大いに揺さぶられた。西武に一目置いている巨人は、西武がもし清原を取れなかったら、桑田指名に出てくるのではないか。巨人はドラフト当日の朝、会場のホテルで最終会議を行い「桑田1位指名」に踏み切った。そして清原氏は高校での会見で涙を見せた。「巨人に裏切られた」と。

▽ドラフト直前の「うさんくさい」動き

結局、桑田氏は「巨人なら話は別」と早大をそでにするのだが、いろいろな推測がなされ、以下に書くこともその域を出ない。

私は当時、年に2度ほど長嶋茂雄氏の長男、立大の一茂氏を見に神宮球場に足を運んでいた。「KKドラフト」直前のある日、記者席がざわついていた。

聞けば、当時高校生の桑田氏が早大の試合を観戦に来たはずだが、姿が見えないので探しているという。

▽できすぎたインタビュー記事

実はそのころ、桑田氏は神宮球場隣の喫茶店で早大の学内紙「早稲田スポーツ」の取材を受けていた。1面に掲載されたインタビュー記事を読んだ時、うさんくさく感じたことを鮮明に覚えている。

「進学なら、そんなにこそこそすることはない。できすぎている」と思った。アマ球界に人脈を持つ根本氏が桑田氏の動向をキャッチしていても不思議ではない。

そして、ドラフト本番では西武の強さがグラウンドだけでないことを見せつけられたのだった。

▽当初の目的と違うドラフトの変遷

ドラフト制度は、新人の契約金高騰抑制と戦力の均衡化を目的に、1965年に導入されたが、球団の都合でくじ引きだったり逆指名だったり、当初の目的とは別に変遷を続けてきた。

だから、多くのドラマや悲劇を生んだ。とはいえ、当の選手に「これも人生の1ページだよ」などと言えたものでないことは確かである。最終的に決断するのは本人だが、菅野には悔いが残らないよう、後で笑ってプレーできるよう願うばかりだ。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信社では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。