見応えのあるサッカーというのは、必ずしも多くのゴールが決まる試合とは限らない。素晴らしい攻撃を、それを上回る素晴らしい守備やGKのファインセーブで防ぐ。もし、そのゲームが、結果的に0-0で終わったとしても、90分間の後に十分な満足感を得られる試合というのは多々ある。

その意味で、ロンドン五輪アジア最終予選のU-22日本代表とU-22マレーシア代表の試合は、なかなか楽しめる内容だった。圧倒的に攻めている割に、日本が2点しか取れなくてもだ。

▽立役者はマレーシアのGK

日本とマレーシアとでは、地力の差がかなりあった。それをスコア上での僅差の試合に持ち込んだ最大の立役者は、マレーシアのGKカイルル・ファーミの存在だろう。発表された身長は172センチ。しかし、実際はもっと小さいのではないかと思われたキャプテンは、正確なポジショニングと判断力、抜群の反応で決定的なピンチを幾度となくセーブ。日本にフィニッシュの精度という課題を与えてくれた。

▽「個の質」上がり、高まる可能性

大量点こそ奪えなかった。それでも日本が見せた攻撃のアイディアは、かなり質の高いものだった。少なくともアジアでは、トップクラスだろう。

昨年のアジア大会を制したメンバーで、この日の先発に名を連ねたのはキャプテンの山村、東、鈴木の3人。アジア大会当時は、Jリーグの日程の関係もあって、メンバーがJクラブの控え選手や大学生が中心だったが、今回のメンバーのほとんどがJリーグでレギュラーとして活躍する選手。間違いなく「個」の質が上がり、可能性は高まったといえる。

▽シドニー五輪上回る攻撃陣

特に攻撃面に関しては、他にはない何がしかの武器を持っているタレントが豊富で、ベスト8になったシドニー五輪のチームを上回る予感がする。

シドニーでは、中田英寿や中村俊輔といったパスを出すタイプの選手が主力になったが、今回のチームは独力で局面を打開できるドリブラーが存在する。

フル代表でも活躍し、急激に存在感を増す清武。Jリーグでも屈指のドリブラーに成長しつつある原口。4-2-3-1システムの2列目のサイドにボールを持てる選手がいる。

さらにこの両翼を後ろから追い越して攻撃に厚みを持たせる酒井宏樹、酒井高徳の超攻撃的なサイドバックが絡む。守る側からすれば、一方のサイドに視線を向けなければいけないわけで、そうなると当然背後のスペースに対する注意力は落ちる。

▽歴代で最も攻撃的な代表

今回の五輪代表は、サッカーで最もゴールの生まれやすいサイド攻撃に持ち味を発揮する選手が多く、歴代の日本サッカーの代表チームのなかでも、最も攻撃的なチームといってもいいのではないだろうか。

中盤から前線へのパスで得点を奪おうとするサッカーは、引いた相手に対して苦戦を強いられる。しかし、サイドからの攻撃は引いた相手に対してもより効果的にチャンスを作り出せる。

アジア予選では日本を相手にバーレーンやシリアもゴール前を固める戦術を行ってくるだろうが、サイドからの攻撃を繰り返せば、相手の守備は必ず破たんをきたすはずだ。

▽気持ちは早くも五輪本大会

ということで五輪予選に関しては、あまり心配はしていない。気の早い話ではあるが、注目したいのはロンドンでの本大会の話だ。

アジアよりも1ランクも2ランクも上の実力を持つチームに、日本がどの程度通用するのか。そこでの活躍が2014年のブラジルでのワールドカップに直結するだけに、来年が待ち遠しいという人も多いのではないだろうか。

W杯に比べれば、欧州各国の五輪への力の入れ方はかなり落ちる。アルゼンチンやブラジルなど南米勢と違い、クラブ優先の色が濃い欧州勢はここ数大会を見ても五輪でベストメンバーを組んできたことはない。それを考えれば、なでしこだけでなく男子の日本も十分にメダルを狙えるチャンスはある。

▽さらなる上積みの可能性も

マレーシア戦のメンバーでもかなり魅力的だが、このチームには更なる上積みの可能性がある。ドイツで活躍する香川(ドルトムント)や宇佐美(バイエルン・ミュンヘン)、さらに開催地ロンドンのアーセナルでデビューした宮市も本大会時点でまだ23歳以下。所属クラブとの契約がどうなっているかは分からないが、条件的にはオーバーエイジ枠を使わなくても出場が可能なのだ。

攻撃面に関しては、関塚監督が頭を悩ませるくらい高い質での豊富な組み合わせが可能だろう。唯一の不安は、アジアレベルでは問題点が露呈しにくい守備面だ。

特にJリーグで出場チャンスに恵まれない濱田、そして鈴木のCBのポジションに関しては世界と戦うためには、何らかの手を加えないといけない。この問題が解決されたとき、日本は1968年メキシコ五輪以来のメダルを射程にとらえるはずだ。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。