「これぞ年間最高試合の最有力候補!」-7月16日の英国リバプールで、事実上の同国ライト級最強を決定する運命の対決が劇的に幕を閉じた直後から、絶賛の嵐が鳴りやまない。

再起戦と呼ぶにはあまりにハードルの高いこの試合で、かつて「天才児」と呼ばれていた本領を発揮、あざやかに勝利した26歳のケビン・ミッチェルの帰還は、かくのごとく祝福されたのだった。

英国の「天才児」といえば、現在は1階級上の世界王者として君臨するアミア・カーンが、アマ時代にアテネ五輪で17歳にして準優勝を果たした当時、こう形容されていたのが記憶に新しいが、実はミッチェルこそ、アマ時代に少年部門にはあるまじき「倒すボクシング」で勇名を馳せ、カーンに先立って、来るアテネ五輪の秘密兵器として育てたいという申し出がありながらもこれを断り、家族のために一銭でも早く現金を家に入れたいとプロ入りした経緯があった。

常に注目を浴び続けるカーンに対して、無名でも手強い連中を倒し、次には世界的強豪をも退け、迎えた昨年5月のWBO世界ライト級暫定王座挑戦だったが・・・。この待ちに待った好機に、彼女との不仲が原因で生活習慣を乱してしまい、もはや試合どころではなくなってしまったのだ。

最低の精神状態でリングに登った挑戦者は、この試合に備えてタイでみっちり仕上げてきた武闘派王者マイケル・カツディス(豪州)に無残な3回ストップ敗。そして、冒頭の再起戦を迎えたわけなのだが、対戦相手の欧州王者ジョン・マレーの戦績は31戦全勝(18KO)、8年間のキャリアで獲得したタイトルを列挙すれば、WBCユース、イングランド、英国、そして欧州王座ときちんと段階を踏んできた実力派であることは明らか。

事実、昨年は専門誌の表紙を飾り、出身地マンチェスターの大先輩リッキー・ハットンの後継者と期待される強豪だ。北京五輪出場、アマ世界選手権(シカゴ)大会銅メダル獲得の逸材ジョー・マレーの兄でもあり、ミッチェルと同じ26歳。WBA世界王座挑戦の前哨戦として、満を持してこの試合に臨んだマレーだったが、激戦の末、初めての敗北を痛烈な8回TKOで喫することになる。相手が悪かった、なにしろ「天才児」ケビン・ミッチェルが過去最高のコンディションでリングに戻ってきたのだから。(草野克己)