アマチュア野球担当記者の主な仕事として、秋のプロ野球ドラフト会議で上位指名がかかりそうな有力選手の動向を追うというものがある。

今年の大学球界で一番の注目株は東海大4年生の菅野智之投手だ。最速157キロの速球を誇る本格派右腕は、多彩な変化球を操り、制球も抜群。加えて巨人の原辰徳監督のおいっ子という話題性もある。その巨人が早々とドラフト1位指名を公表していることもあり、いつもはあまり取材の機会がない首都大学リーグだが、今春は彼の登板日には必ず球場に足を運ぶことにしている。注目度は抜群で、スポーツ紙はほぼ全紙が取材に訪れ、一般紙やテレビ局も加わり、試合後は記者会見場まで設けられて大いににぎわっている。

4月26日。昨秋リーグから続く連続イニング無失点を実に53回まで伸ばし、リーグ新記録を樹立した。ところが、その試合で味方の手痛い失策でまさかのサヨナラ負け。勝ち点まで落としてリーグ優勝が難しくなってしまった。「記録のことは何も考えていなかった。信じられない。思い通りにいかなかった。そんなに甘くない」。負けた現実をなかなか受け入れられず、こわばった表情で話す姿からは、新記録達成のめでたい雰囲気はみじんも感じられなかった。

菅野は東海大相模高(神奈川)時代、2年連続で夏の県大会決勝で敗れて甲子園出場はなし。東海大では昨年、全日本大学選手権と明治神宮大会でともに決勝で敗れている。誰もが認める圧倒的な実力がありながら、なぜか「あと一歩」で栄冠をつかめないのだ。早大から日本ハム入りした斎藤佑樹投手が5回6安打4失点という、さして目を見張るような投球内容でもないのに、今年の新人で一番乗りの勝ち投手になっているのを見ると「もしかして菅野って、佑ちゃんと違って『持っていない』人生なのでは」と思ってしまったりする。

なかなか頂点にたどり着けないということについて以前、菅野に質問したことがある。「自分は大一番を何度も経験して強くなっている。今年は勝負の年。どこまで成長できるのか、自分自身に期待している」と明快な答えが返ってきた。

その通りだと思う。日本一はおろか、甲子園など全国大会の出場経験がなくても一流になったプロ野球選手はたくさんいる。逸材が、悔しさを糧に成長していけばそれでいい。10月のドラフト会議が今から楽しみだ。

戸田 康文(とだ・やすふみ)1971年横浜市生まれ。神奈川・桜丘高―明大を経て共同通信に入社。大阪、福岡支社を経由して本社勤務の後、2度目の大阪から本社へ。担当はボクシングのほかアマチュア野球、ラグビーなど。