巨人期待の新人投手、沢村拓一が5月11日の横浜戦で2本塁打を浴び、1勝の後は3連敗となった。その翌日、沢村を大学時代に育てた中大野球部の高橋善正監督と話をする機会があった。高橋監督は東映(現日本ハム)-巨人でプロ通算60勝。東映時代1971年には完全試合も達成し、引退後は数球団で投手コーチを務めた人だ。

▽左ひざで踏ん張れず

「沢村が打たれましたね」と話し掛けると、高橋監督はこう分析した。

「コントロールがよくない。いい直球もあったけど、(指にかからず)抜けた球がストライクゾーンに行く。もっと大きく外れればいいけど、大学時代から打てる範囲に行くんだ」

「すべてはきちっとしたフォームで投げてないから。踏み出す左ひざで踏ん張れず、すぐ棒立ちになる。安定したコントロールが付くわけない」

「勝ちを意識したり力んだりすると余計そうなる。斎藤だって大学2年ぐらいまでは左ひざがよく粘っていた。速い球を求め出してから安定感がなくなり、低めやコーナーへのビシッとした球が減った。沢村も悪い時は打たれまいとして変化球に頼る。原点に戻るしかない」

▽斎藤は1カ月で戦列離脱

もちろん斎藤とは、早大から日本ハムに入団した斎藤祐樹のことだ。入団以来、プロ野球の話題を独占し、その人気もさることながら、沢村と同様、開幕から1軍ローテーションに食い込み、早々と2勝をマークする即戦力ぶりだった。

だが、4試合目の先発となった5月8日のソフトバンク戦で、1回を投げただけで左脇腹を痛め降板。検査の結果、左脇腹の筋挫傷で全治2~3週間と診断され、開幕1カ月で戦列を離れた。日本ハム首脳陣は投手生命にかかわる肩やひじでなく、ほっとしているだろう。

▽勝ちたい一心の投球

首脳陣が斎藤に1週間おきの登板に耐えうる実力と体力があると判断していたのだろうか。だとしたら、斎藤は過重な負担を背負わされていたとも言える。対戦した打者が一様に「ベテランのような(変化球中心の)投球」と評していた。勝ちたい一心の投球だったのだろう。

プロの打者に対応できる力をじっくりつけるために、この際2軍なりで鍛え直せばいい。決め球は変化球でもいいがやはり基本は「外角低めの直球」だ。早大4年の時、中盤以降は目に見えて球威が落ちていて、投球術だけが頼みだったからだ。

▽ジワリ立ちはだかるプロの壁

開幕1軍といっても、キャンプからの疲れは相当なものだったろうし、もっと十分な間隔を取るべきだった。沢村もそうだが、ジワリとプロの壁が立ちはだかっているのだ。抜群の祐ちゃん人気が首脳陣の判断を狂わしたとは思いたくないが、さてどうだろうか。

今年、ドラフト指名でプロ入りした68選手のうち大学組が23人。うちドラフト1位は7人。この祐ちゃん世代が今後のプロ野球を支えることになる。個人差はあるにしても新人の育成は慎重にしたいし、新人に頼り切るほど、プロ野球は薄っぺらい戦力層なのだろうかと問いたい。

▽育成に時間かける大リーグ

最後に大リーグの新人育成法を紹介したい。昨年、レッズのマイク・リークという大卒右腕がマイナー登板なしでローテーション入りして話題となったが、これはごくまれな例だ。

マイナーを経由しないでメジャー入りしたケースは、現在のドラフト制度下でリークが21人目だそうだ。高校生、大学生がプロの長期シーズンを乗り切れる調整法や体力は持っていないし、高額な契約金で獲得した新人を故障させるわけにはいかないというあたりが理由だろう。

▽マイナーから段階的に

マイナーでは、下のクラスから1年に40イニングほどを段階的に増やし、メジャー昇格直前にシーズン150イニングぐらいに持って行くのが主流。肩に負担のかかる速球投手には特に厳しい。

メジャーに上がっても投球回、球数は徹底して管理される。松坂大輔(レッドソックス)が、投げ込み不足から調整がうまくいかなかったのは記憶に新しい。有望新人を「金の卵」と呼ぶが、日本球界に望むのは、彼らををつぶさないでということだ。

田坂 貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。立命館大学卒。スポーツニッポン新聞社記者を経て、70年共同通信社入社。東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆