スポーツは人に集うきっかけを作り、集う場をも提供する。大きな目標を掲げていても、いなくても困難ななかでの役割は十分にある。

4月3日に行われた柔道の全日本選抜体重別選手権2日目。会場に、仙台大女子柔道部の南條和恵監督の姿があった。

3月11日、南條監督は宮城県柴田郡にある自宅に4歳の息子と一緒にいた。地震発生後、ほどなくして玄関に響いたのは「監督、大丈夫ですか?」という元気な声。3年生が部員全員を引き連れ、自宅にやって来たのだという。最上級生の機転に感謝しつつ、学生の安全を確保するため「危ないから、このままうちにいなさい」。倒壊などの被害がなかった自宅に部員を避難させ、総勢15人で共同生活を送った。

驚いたのは部員たちのたくましさ。水が出ないと分かれば近くの川へ水を汲みに行き、朝6時半から近所のスーパーが開くと聞けばまだ空に星の瞬く4時に起きて並びに出かけてゆく。部員たちは見事に規律をもって、へこたれることなく緊急事態を乗り切ったという。

「今回ほど学生を頼もしく感じたことはありませんでした。その姿を見ていて、この子たちは柔道を通じていろんなこと学んでいてくれたんや、と思ったらうれしくてね。おかげさまで学生といっしょの間は笑って過ごせました」

3日目には、電話がつながり始めたため、“臨時避難所"を解散。学生を親元に戻し、自らも京都府内の実家に息子とともに帰省した。今大会へは京都から直接来たのだが、迷いを抱きながら訪れたという。学生と離れた途端に緊張がほどけて気が滅入り、思い詰めてしまっていた。

「自分だけ水も電気もあるところでぬくぬくしてる。しかも試合に来るなんて不謹慎じゃないのかな、って」

しかし、会場で旧知の仲間たちと再会を喜び、被災地から来た関係者とは互いの無事を確認して語り合ううち気持ちも和らいだ。試合に出場した教え子を指導したことで、監督としての自分を少し取り戻すことができた。

「来てよかったです。みんなに会えて元気をもらったし、生きて柔道ができる幸せをつくづく感じました。今度は私が元気を届ける番です」

仙台大の柔道場は幸いにも大きな被害はなかった。「早くいつものように柔道がしたい」。たくましく育ってくれた学生たちとの練習再開は4月半ばからを予定している。(スポーツライター・佐藤温夏)