スキーのワールドカップ(W杯)は3月で全日程を終えた。ジャンプ女子では高梨沙羅(クラレ)が2季ぶり3度目の総合優勝を飾るなど、今季も各種目で日本選手の奮闘が光ったが、その中で、成し遂げていることのすごさをあらためて感じた選手がいる。「複合ニッポン」のエース渡部暁斗(北野建設)だ。

実績は輝かしい。長野・白馬高時代からホープとして注目され、17歳で2006年トリノ冬季五輪出場を果たした。同年3月の札幌大会でW杯デビュー。09年の世界選手権では日本の団体金メダルに貢献した。12年2月にW杯初勝利を挙げると、14年ソチ冬季五輪では個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得し、複合の日本勢で1994年リレハンメル冬季五輪以来の表彰台に立った。

W杯通算7勝。円熟期を迎えつつあり、27歳で迎えた今季は2季連続で個人総合2位に入った。3季ぶりに未勝利に終わったのは残念だったが、出場した個人17戦すべてトップ10入り、そのうち12戦で表彰台に上がった。持ち味の安定感にさらに磨きがかかったシーズンだった。今や押しも押されもしない日本を代表するスキー選手であり、「究極の目標」と口にするW杯総合優勝を十分狙える位置にいる。

ノルディック複合では飛躍と距離の総合力が問われる。W杯では前半飛躍の得点差をタイムに換算し、1位から順に後半距離をスタートする。どちらか一方に秀でる選手はたくさんいるが、渡部暁斗はジャンプ、距離とも高いレベルの力を持っており、バランスの良さは世界でも屈指。身長173センチ、体重60キロと決して大きくない体で、屈強な欧州勢と相手の「ホーム」でしのぎをけずり、毎シーズンのように世界のトップ争いを繰り広げる姿は「すごい」の言葉に尽きる。

ただ、ドイツなどで人気の高いジャンプ男子や、北欧諸国で抜群の集客力を誇る距離に比べると、その中間に位置する複合はやや地味なイメージで、メディアなどでの露出が少ない。日本では五輪以外では試合がテレビ放送される機会も少なく、なかなか活躍が脚光を浴びにくいのが現状でもある。1990年代には荻原健司さんが「キングオブスキー」として世界のトップに君臨し、高い知名度を誇ったが、その後、主にジャンプを得意としていた日本勢に不利なルール変更もあり、低迷が続いたのも人気や競技の普及に響いたとされる。

その「冬の時代」ともいえる現状に渡部暁斗が風穴をあけた。日本チームの河野孝典ヘッドコーチは「もっと高い評価を受けてもいいだろうと思っている」と言い、筆者もその意見に賛同する。

「僕はノルディック複合が好きで楽しくてやっている」と強調する本人は記者会見で流ちょうに英語を操り、ジョークも飛ばす飾らない性格だ。取材にも真摯に対応し、自らの言葉で論理的にはっきりと思いを伝えられる知的な選手でもある。スキー界に確かな足跡を刻む渡部暁斗の活躍をぜひ知ってもらいたいと思う。そして実にこのエキサイティングな競技をもっとたくさんの人に楽しんでほしい。

益吉 数正(ますよし・かずまさ)1981年生まれ。宮崎県出身。2005年共同通信入社。千葉、甲府、福岡の支社局で警察などを担当後、大阪運動部を経て、13年2月から本社運動部。プロ野球の遊軍を2年間担当し、14年12月からスキーや陸上競技を中心に取材。