元世界女王の幕引きとしては、あまりに寂しい光景だった。3月上旬まで大阪で開催されたサッカー女子のリオデジャネイロ五輪アジア最終予選。試合前に予選敗退が決まってしまった7日のベトナム戦に勝利した日本代表「なでしこジャパン」の選手たちは、観衆わずか3418人の閑散としたスタンドに向かって静かに頭を下げた。

2011年の女子ワールドカップ(W杯)で優勝して脚光を浴び、12年ロンドン五輪と15年の女子W杯で準優勝。第一人者の澤穂希さんが引退したとはいえ、アジア予選は悲願の金メダルに向けた通過点のはずだった。しかし初戦のオーストラリア戦を落とすと、格下と思われた韓国や中国との試合でも白星を逃す。どんな強大な相手と戦っても活路を見いだしてきた選手たちが悩み、いつも強気の宮間あや主将(岡山湯郷)も「勝負の流れを引き寄せ切れていない。その原因がどこにあるのか…」とうなだれた。

「なでしこ」の活躍する姿ばかり取材してきた私にとっても、初めて目にする重苦しい雰囲気だった。原稿を書くには敗因や問題点について質問しなければならないが、選手や佐々木則夫監督(大会後に退任)の傷口に塩を塗るような感覚があって非常につらかった。

それにしても気になったのは、冒頭にも書いた観客の少なさだ。会場のキンチョウスタジアムは約2万人を収容するが、今回の予選では最高でも中国戦の6959人にとどまった。日本開催で、しかもキンチョウスタジアムは客席とピッチが極端に近い。サポーターの声援が確実に力になる状況なのに、選手を後押しする空気が生まれなかったのは残念だった。

世間の注目度が低いのかと思ったが、実はそんなことはない。ビデオリサーチ社によると、テレビ中継(NHK総合)の関東地区視聴率は韓国戦の後半に16・3パーセントを記録するなど、男子のフル代表に引けを取らない数字だった。客足が伸びなかったのは、集客へのアプローチ不足が原因に違いない。大会中、大阪の街を歩いても予選がすぐそばで開催されている雰囲気は全く感じられなかった。

昨年の女子W杯の後、帰国会見に臨んだ宮間は「結果を出し続けないと皆さんが離れていく不安を抱えながら戦っている」と明かした。注目されない時代が長かった日本の女子サッカー界にとって、結果が重要なのは理解できる。ただ、プレーに集中すべき選手が集客の心配までしなければならないのなら、背負うものが多すぎるというものだろう。輝かしい好成績をつかんできた選手に対し、周囲は本腰を入れてサポートしてきたのだろうか。

それはチームの強化面でもいえることだ。五輪出場権を得たオーストラリアや中国は予選の直前まで練習試合や親善試合をこなしてきた。一方、日本は昨年の女子W杯後、主力がそろった試合は11月のオランダとの親善試合の1度きりだった。強化担当を務めた日本サッカー協会の上田栄治理事は「1、2月に親善試合を組むのが難しいスケジュールだった」と釈明したが、お粗末だったと言わざるを得ない。

大きな喪失感がある中、なでしこリーグは26日に開幕した。「またファンを増やしていけるように頑張りたい」(岩清水梓=日テレ)と選手たちは必死に前を向き、再び走り始めている。男子とは比べようもないほど厳しい環境で奮闘する姿を見てきた私としては、日本協会を中心としたバックアップ体制の整備が進むことを切に願っている。

石井 大輔(いしい・だいすけ)1983年生まれ。東京都出身。2006年共同通信社入社。名古屋支社、仙台支社(プロ野球楽天担当)を経て11年12月から本社でサッカーなどを担当。現在はサッカー女子日本代表を中心に取材。慶大時代はボート部に所属した。