「覚悟」と言う言葉を繰り返し、現役引退と同時に伝統球団の監督に就任した。立場が大きく変わっても、感覚はまだ選手に近く、第一に選手のことを思いやる。チームとしての成熟も必要だが「まずは一人一人が強くなることが大事と思っている」。巨人の高橋由伸新監督だ。

口数は決して多くないが、その紳士的な態度、小さな気配りを欠かさない性格で、現役時代から裏方も含めて周囲の人望は厚かった。チームを率いる立場になっても、その姿勢は変わらず、キャンプ中もさりげない言動で選手を楽にさせた。新外国人のギャレット・ジョーンズは真面目な性格で、周りの助言に素直に耳を傾け、それを受け入れてきた。ただ、その中には培ってきた理論に合わないアドバイスがあるかもしれない。米大リーグ通算122本塁打の実績を持つ強打者のプライドを尊重し、高橋監督は「今までやってきた調整法もある。遠慮することなく、意見を言いなさい」と声を掛けた。

新人の重信慎之介(早大)は、初の環境でキャンプ初日から張り切っていた。実戦でも好結果を残し、マスコミにも大きく取り上げられた。監督は心身ともに蓄積した疲労を気に掛けたのだろう。キャンプも終盤に差し掛かったころ、練習中のルーキーのそばに自ら歩み寄り、アマチュア時代の練習方法などを聞きながら「疲れていないか? 実戦が続くから、しっかりケアをするように」と言い添えた。何げない言葉だが、その心遣いが重信には響いたという。

実戦に入っても、その考え方が随所に表れてくる。初めて采配をふるうことになり、オープン戦期間中にバントやエンドランなど細かなサインプレーの確認もしたいだろう。ただ、3月に入っても、そういう場面は皆無に近い。「選手に力を発揮させることが最優先」という考えからだ。制約を設けずに、なるべくフリーに打たせ、各自の調整を優先させる。レギュラー争い、1軍入りを巡る競争で、チャンスを平等に与えようという狙いも見えてくる。

原辰徳前監督は、ときに辛辣(しんらつ)なコメントで選手の発奮を促し、中軸にもバントを命じるなど、どちらかと言えば管理野球で常勝チームをつくった。まだシーズンに入っていないが、現状では高橋新監督は選手の自主性を重んじている。「ずっと(結果が)いいとは思っていない。失敗したからと言って、今の段階でどうこう言うつもりはない。思い切ってプレーして、課題が分かればいい」といったように、安易に選手を批判するようなコメントも残していない。どちらのスタイルが良い悪いではなく、“高橋由伸流"で強い巨人の再構築を目指している。

今季は「一新」というチームスローガンを掲げた。「新しいスタート。新しい歴史をつくるということ」と思いを託す。さらに、その言葉には「一心」という意味も込められている。「心を一つにして戦う」とチームのまとまりを求めている。新人監督が選手の熱意を引き出し、2年ぶりのリーグ優勝、4年ぶりの日本一奪還へと向かっていく。

浅山慶彦(あさやま・よしひこ)2004年共同通信入社。相撲、ゴルフなどを経て、プロ野球担当に。阪神3年間、ロッテ2年間のカバーを経て12年から巨人担当。愛媛県出身。