昨年9月、2020年東京五輪の追加種目選定で大会組織委員会は国際オリンピック委員会(IOC)に、野球・ソフトボールや空手など5競技、18種目を提案することを決めた。中でも若者へのアピール度を重視するIOCの意向に沿うものとして採用されたとみられるのがスポーツクライミングだ。名称からは急峻な山岳で行われる岩登りが連想されるが、実際は違う。主に室内で行われ、「ホールド」と呼ばれる突起物が設置された人工壁を登る競技だ。

そのスポーツクライミングの国内最高峰の大会が1月30、31日と埼玉県加須市で行われた。ボルダリングの日本一を決めるジャパンカップ2016。ボルダリングとは高さ約5メートルの壁に設定された複数種類のコースに挑むもので、ほかのジャンルとしては高さ12メートル以上に指定されたルートで制限時間内に到達できた高さを競う「リード」、統一された条件の15メートル壁を2人が隣り合わせで登り、速さを競う勝ち抜き形式の「スピード」がある。東京五輪では、三つを組み合わせたものを1種目として行うことが有力視されている。

追加種目候補となってから初めての全国規模の大会だったということもあり、会場は熱気に包まれた。決勝が行われた31日は、11度目で大会史上初めての有料入場としたにもかかわらず、約400人の観客が詰めかけ、初の生中継が衛星放送で行われた。ワールドカップ(W杯)女子でも活躍する18歳の野中生萌(東京都連盟)は「今までにないぐらいお客さんがいて、違いを感じる」と五輪効果を口にした。

競技の歴史は新しく、国際統括団体の国際スポーツクライミング連盟も2007年に発足したばかり。道具に頼らずに岩場を登るフリークライミングの愛好者が多い欧州を中心に1980年代から発展し、ルールを統一するなどして競技性を高めてきた。国内でも愛好者を中心に人気の高まりが顕著で、日本山岳協会が推計する競技者人口は約60万人。2008年には全国で100に満たなかったクライミングジムの数も、現在は約500を数える。

傾斜角度が垂直以上の壁を不可能とも思える技術で登っていく爽快さがこの競技の最たる魅力だが、愛好者を惹きつける要素はファッション性にもありそうだ。会場のかたわらにはDJブースが設けられ、軽快な音楽で盛り上がりを演出。スポットライトでショーアップされた壁に、色とりどりのウエアを着たクライマーが挑んでいく。W杯で4度の総合優勝を誇る女子の第一人者、野口啓代(茨城県連盟)は「趣味として始めたので、はじめは自分がアスリートという感覚はなかった」と振り返る。まさに娯楽から発展したボトムアップ型のスポーツと言え、その活況を五輪に取り込みたいというIOCと東京五輪組織委の思惑にもうなずける。

日本山岳協会の尾形好雄専務理事は「皆さんにどんな競技が知ってもらうためにも、一つ一つの大会をスケールアップする必要がある。もう一つの課題は日本代表の強化。東京五輪ではメダルを狙いたい」と話す。日本勢はボルダリングとリードでは国際的に活躍する選手は多いが、国内大会すら行われていないスピードは、協会主導での強化が急務という。

8月のIOC総会で追加種目に正式決定される見通しで、2020年東京五輪に向けてますます注目度が高まりそうだ。ただ、これまでは競技としてほとんど取り上げられなかったスポーツで、経験者以外はイメージを持ちにくいというのが実情。文字で表現する立場から言えば、複雑な体の使い方をしながら重力に逆らって壁を登っていく選手の描写は、実に難解だ。ルールの周知なども含め、この競技の魅力を伝えていくためには、われわれ報じる側にもいろいろと工夫と研鑽が必要と感じている。

鉄谷 美知(てつや・よしとも)1977年生まれ。仙台市出身。2002年に共同通信入社。福岡支社、大分支局、大阪支社運動部を経て12年から運動部。ロンドン五輪、サッカーW杯ブラジル大会を取材し、現在は公営競技などを担当。