世界各国のスター選手が集うイングランド・プレミアリーグ。「サッカーの母国」のトップリーグで首位を走るチームで、日本人選手がレギュラーとして活躍している。レスターの岡崎慎司だ。その充実ぶりを見ていると、一瞬「本当にこれは現実に起こっていることなのだろうか」と半信半疑になる。

6日のプレミアリーグ第25節。1位レスターと2位マンチェスター・シティーの直接対決は、レスターがアウェーにもかかわらず3―1の快勝を飾り首位を堅守した。

昨シーズンの最終順位は20チームで14位。そのチームが開幕直後ならいざ知らず、全38節で争われる同リーグの3分の2近くを消化した時点で優勝に最も近い位置にいる。誰がこの躍進を予想しただろうか。なぜなら、1年前の同時期、レスターはリーグ最下位という危機的状況にあったのだ。

辛うじて降格を免れたシーズンオフ、得点力不足の解消を狙ったチームが白羽の矢を立てたのが岡崎だ。ドイツ1部リーグのマインツで2シーズン連続の2桁得点(2013―14シーズン15得点、14―15シーズン12得点)を記録した計算できる戦力。とはいえ、タイトルを争うためではなく、プレミア残留を果たすための補強だったというのが正直なところだろう。

2トップでコンビを組む現在得点王のバーディーは、今シーズン、プレミアリーグ新記録となる11試合連続得点を含む18ゴールを決めている。それに比べると、4という岡崎のゴール数はストライカーとしては物足りない感じもするが、「(チームに)さらなるエネルギーを与える存在」と語るラニエリ監督やチームメートは数字に表れない岡崎の貢献度を正当に評価しているのだろう。

守備も含めた岡崎のアグレッシブさは、ザッケローニ監督時代の日本代表からおなじみだ。ただ、現在の岡崎はさらにスケールアップした感がある。レスターの基本戦術である、いったん自陣に引いて守った後に仕掛けられるカウンター。その際に見せるロングスプリントのスピードが、尋常ではないのだ。どこにそのエネルギーが秘められているのか不思議になるくらいだ。

前線からの献身的なプレスで、チームを助けることのできるアタッカー。それは非常に重要なことではある。だが、それだけではチームの信頼は得られない。岡崎がチームメートに「こいつと一緒にサッカーがやりたい」と思わせる要素。それは自らの身を犠牲に、つぶれ役になって味方にチャンスを与えることができるからだろう。

サイドからのクロスに対して、ニアポスト際に体を張って飛び込む。岡崎はそのプレーを、Jリーグとは比較にならないほどのフィジカルコンタクトの厳しさを持つプレミアリーグで繰り返しているのだ。

ニアポスト近辺にわずかにしか存在しない“極狭"なエリア。サッカーにおける、その大事な地点を攻撃側が占拠できれば、得点パターンは格段に増える。サイドからのクロスに対し、入り込んだ選手が直接シュートを打つことが第1選択肢。そして、スルーという第2選択肢でファーサイドの選手を使えれば、ゴールの可能性はさらに高まる。なぜなら、GKは確実にニアポストの方へポジションを移すからだ。

DFはボールのあるサイドに視線を向けている。その状況でファーサイドにいた選手がDFの背後から飛び出てくれば、フリーでシュートを打てる可能性が高い。そして、GKがニアポストに移動していることを考えると、ゴールマウスは大きく空いていることになる。得点の確率は飛躍的に高まるのだ。

ただ、ニアサイドに飛び込むには相当の覚悟と勇気がいる。ほとんどが接触プレーを伴い、つぶされることが多いからだ。それでも歴代のアタッカーたちがこのエリアを支配しようとしたのは、このスペースを確保すれば得点の可能性が高くなることを知っていたからだろう。

マンチェスター・シティーとの決戦。岡崎はいくどとなくニアサイドで体を張った。開始3分、右サイドから放たれたマレズのFKに対し、DFをニアサイドに引っ張ることでスペースを空けた。そして、フートの先制ゴールが生まれた。レスターの3点目となった後半15分のフートのヘッドにつながる左CKも、バーディーのクロスに合わせた岡崎のニアへの飛び込みがきっかけだった。

岡崎は後半36分に交代。ベンチに下がる背番号20をラニエリ監督はじめ、チームメートが抱擁でねぎらう。サッカーの本場の人たちは、得点を生み出す「ニア」と「ファー」の役割分担の重要性をよく分かっている。そして、レスターの「ニア」と「ファー」の良好な関係を築く最大の立役者。それが他ならぬ、ニアサイドで常にユニホームを泥だらけにしている岡崎だということも知っているようだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。