今年のプロ野球で注目されるのが本塁上でのクロスプレーだろう。日本でも捕手のブロックが禁止されたからである。

本塁上の危険なプレーを排除するのが目的で、走者の捕手へのタックルなどを禁止するのに伴い、捕手のブロックによる進路妨害を認めないというものだ。

各球団ともキャンプ、オープン戦を通してこの新ルールにどう対応するか頭を悩ませているが、一番多いのが審判に対して「統一判断基準を明確にしてもらいたい」という声である。

実はこれが難しい。スピードのあるプレーの流れの中で、審判がどう判断するか。立ち位置によっても見方は変わる。

また「本塁を死守する」捕手にとってブロックは長年にわたって磨き上げた“技術"でもあり、そう簡単にプレースタイルを変えられないだろう。

審判、捕手にとって試行錯誤の一年になることは容易に想像できるし、要は得点に直結するルール変更だけに「野球が変わる」可能性はある。

▽間違いなく得点増に

三塁走者が内野ゴロでスタートを切る、いわゆる「ゴロゴー」が今まで以上に増えるのは間違いない。なにせ、捕手は完全なアウトのタイミングで返球を捕っても三本間の線上でタッチしようものなら「走塁妨害」を取られる可能性がある。

また返球がそれてライン上で捕球する際も妨害を回避するように見せなければならず、タッチの仕方など技術面の改良が求められる。

攻撃側に有利な新ルールで得点が増えるのは自然の成り行きである。

昨年5月のヤクルト―阪神戦で阪神・マートンが完全にアウトのタイミングながら西田捕手に体当たりして物議を醸した。

マートンは過去のヤクルト戦でも田中雅、相川にタックルを仕掛けており、ヤクルトはNPBに抗議文を提出。選手会からも「危険なプレーをなんとかしてほしい」との声がはっきり上がるようになっていた。

▽メジャーは導入3年目

メジャーでは2014年に試験的に導入し翌15年から「ブロックとタックル」禁止の新ルールが誕生した。

導入1年目では本塁上の判定に約90回の抗議があり、その1割以上で判定が覆る混乱ぶり。明らかなアウトのタイミングなのに捕手が結果として、走者の走路をふさいだため得点が認められた。

2年目になると、抗議は3分の1に減り、アウトの判定がひっくり返るケースは明らかな捕手の妨害行為に限られているようで、捕手がブロックしたとして、アウトの判定からセーフに変更となったのは数件だけだった。

メジャーでもここ数年、走者のタックルなどによる捕手のけがが議論の対象となっていた。

激しいプレーが売りのメジャーでは賛否両論が渦巻いたが、新ルール導入に踏み切ったのはけが人が続出したからで、超高給取りの選手の離脱は痛く、背に腹は代えられなくなったのである。

後で触れるが、メジャーは今季から二塁付近での走者の危険なスライディングを禁止したのも同じ理由である。

▽国際基準

日本のアマチュア野球は「捕手は本塁の一角をあけておかなければならない」規則から、捕手のブロックは事実上禁止されている。もちろん、走者のタックルもやってはならず「コリジョン(衝突)ルール」が国際基準になっている。

12年の「U18世界選手権」で大阪桐蔭高の森捕手(現西武)が米国選手に2度にわたって激しいタックルを受けたのはまだ記憶に新しい。

プロ野球でも昨秋の国際試合「プレミア12」ではこのコリジョンルールが採用されたし、メジャーが新ルールに移行した以上、1年後のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)もそうなるだろう。

▽1969年の日本シリーズ

ところで、一番記憶に残るブロックと言えば1969年の川上・巨人対西本・阪急(現オリックス)の日本シリーズだろう。

巨人2勝1敗で迎えた第4戦(後楽園球場)の四回、3点を追った巨人は無死一、三塁。ここで重盗を狙い、三塁走者の土井が本塁に突入したが、岡村のブロックにはね飛ばされたように見えた。しかし、判定は「セーフ」。これに激高した岡村が日本シリーズ初の退場処分となった。

試合後、コミッショナー委員会(宮沢俊義委員長)が急きょ記者会見。質問は、土井はブロックされており「セーフは誤審ではないか」に集中するなど、審判が巨人寄りの判定をしたという声が圧倒的だった。

翌日、あるスポーツ紙が土井の足が岡村の股間をくぐり抜けて本塁に達している写真を掲載して「誤審騒ぎ」が決着した。

私も記者席から見ていたが、土井がブロックにはね飛ばされたように見えた。西本監督は後年まで「土井の足が本塁に達したかどうかが注目され、ブロックされてのタッチプレーの有無は無視された」と、審判の判定に疑問を持っていた。

この頃はブロック最盛期とも言える時期でもあり、捕手はその技術を競っていた。岡村は絶対の自信を持っていたはずである。

▽今季も新ルール導入

本塁上とともにクロスプレーが多いのが二塁付近。一塁走者は併殺を防ぐために二塁から一塁に転送する野手をめがけてスライディングする。

2月25日、MLBと同選手会は「(併殺を防ぐ目的で)走路上から離れて野手にスライディングするなど接触すれば、走者と打者にアウトを宣告できる」ルールを採用すると発表した。

こうしたルール採用の機運が盛り上がったのは、昨年のポストシーズンでの地区シリーズだった。

ドジャースの選手が併殺を防ごうと二塁に入った遊撃手をスライディングでひっくり返した。右腓(ひ)骨を骨折した遊撃手は欠場を余儀なくされた。

ドジャースの選手は「あのプレー一つで新しいルールが生まれたとは思わない。ここ数年、ルール化に向け議論してきた結果だ」と話したが、その通りだと思う。本塁上の危険プレーが議題に上れば当然、二塁付近のプレーが問題になるからだ。

日本人の内野手でこのスライディングで大けがをしたのが2009年のレイズ・岩村(現在は独立・BCリーグ福島兼任監督)と11年のツインズ・西岡(現阪神)。

日本ではメジャーほどの激しいスライディングはあまりお目にかからないから、本塁上ほど問題視されないが、危機感を持っている選手は意外に多い。

昨年オフ、選手会は聞き取り調査を行っていて、一部には「本塁とともに二塁付近でのルール化」を口にする選手はいた。

▽求められる積極的な関与

日本の野球規則の変更は米国から1年遅れでの導入が慣例だった。しかし、ケースよってはもっと柔軟に対応できると思う。選手生命にもかかわる重要なものは即座に導入したらどうだろうか。

実際、アマ球界の規則委員は先の「U18世界選手権」のプレーに危機感を持ち、IBAFを動かして危険プレーの除去をルール化した。

日本が野球先進国を自負するなら、NPBはもっと積極的に関与していくべきだと思う。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆