厳しさと明るさ。両極端な言葉だが、どちらも今の阪神に求められる重要なキーワードだ。リーグ優勝から10年遠ざかっているチームの再建を託された金本知憲新監督は、昨年10月の就任以降、何度も「厳しく明るく」を口にしている。スローガンに掲げる「超変革」のもと、具体的にどう変わっていくのか。まだシーズンどころか、春季キャンプすら始まっていないが、既に随所に変化が見え始めている。

就任して間もない11月、高知県安芸市での秋季キャンプが始まった。午前中は「意識改革」のため、走塁や守備に重点を置いて多様多種な練習が行われ、昼から野手は監督が目を光らせる中、目いっぱい振り込む打撃練習。夕方は野手も投手もウエートトレーニングに遅くまで時間を割き、徹底した体づくりに励んだ。「かなりしんどい」「まじで倒れる」と、若手選手が口をそろえるような例年にない中身の濃い練習となったようだが、中でも「アニキ」らしさ全開だったのが、恒例と化したリレー競争だった。

「トランペット吹きの休日」など監督自らが用意させた運動会の定番曲をバックに、組み分けられた各チームの選手が一斉に飛び出し、グラウンドを疾走する。「人間は競争になると、ついつい全力で走ってしまう。普通のランニングよりもリレー形式の方が、本気度が出る。体力づくりにはプラスになる」という指揮官の意図は、続々と倒れ込む選手を見れば一目瞭然だった。競争だけに罰走も当然。あまりにも差が開いたときには、監督が先頭の選手を捕まえて接戦にする演出もあり、まさに厳しさと明るさが融合した時間だったように思えた。

まだ新体制が始まって3カ月程度だが、「雰囲気が変わった」という選手の声を多く耳にする。藤浪が「メリハリがしっかりついて、いい雰囲気で野球をやらせてもらえている」と満足げなように、はたから見ていても、充実感は伝わってくる。これはどこから来ているのか。最も大きいのはコミュニケーション術ではないか。「選手は家族」と言い切り、ベテラン若手問わず、自分の思いを直接伝えていく。主将の鳥谷には「おまえが変わらんとチームは変わらん」とハッパを掛け、藤浪にも冗談交じりとはいえ「21勝」のノルマを課す。選手との対話を重視するからこそ、復活を期す西岡が「ついていっても間違いない人だと信じてやっていく」とまで言えるのだろう。

過去を振り返れば、選手時代もそうだったようだ。星野仙一監督に口説かれ、2003年にフリーエージェントで阪神入りし、チームはリーグ優勝を経験。その後、監督が代わったシーズン中、若手選手がふざけてパフォーマンスしているのを目にした。「それは星野さんのときでもやったのか?」「それはできません」「だったら、岡田監督が許しても俺は許さんぞ」。明るければいいものではないことを自ら伝えたエピソードだ。厳しい中に明るさがあってチームは強くなる。順番をはき違えてはいけないことを監督が一番分かっているからこそ、周りはついていくのだろう。「全ては勝つため」。悲願のリーグ制覇、日本一へ、芯の通った熱き指揮官のもと、どうチームが変革されていくのか、私自身も楽しみでならない。

山本 駿(やまもと・しゅん)1988年生まれ。岐阜市出身。2011年入社。和歌山支局での警察・司法担当を経て、13年から大阪運動部へ。アマ野球、相撲などを担当し、14年から阪神担当。