正直にいって、敗戦も受け入れなければならない。そう覚悟してしまうほど、相手に押される展開になった。リオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねたU―23(23歳以下)アジア選手権準決勝のイラク戦。前半終了間際の43分に同点ゴールを許した日本は後半、攻め手をほとんど繰り出せない。その戦いぶりを見て、五輪出場権がかかった大事な一戦でチームが力尽きてしまうのではと心配した。

中東・カタールのドーハで行われた同選手権は、グループリーグ初戦から日本にとって面白いほど都合のいい展開に恵まれた。負ければ終わりとなる決勝トーナメント1回戦も延長に突入する接戦になったとはいえ、終わってみればイランに3―0の勝利。スコアだけを見れば快勝だ。

ただ、そのイラン戦も試合内容を振り返ると背筋が凍るような場面があった。後半12分にMi・モハマディが放ったヘディングシュート。クロスバーを直撃したあのボールの軌道がほんの数センチ下にずれていたら、日本は5大会連続で保っていた五輪出場権を失っていてもおかしくなかったのだ。

それを考えれば、いつまでも日本だけに幸運が続くはずがない。特に今回の日本代表の中核を成す年代は、常にアジアの壁に跳ね返され「谷間の世代」と呼ばれてきた。しかも、相手は2013年のU―20ワールドカップ(W杯)で4強入りするなど、この世代ではアジア最強とされるイラクだ。加えて、過去の対戦成績は2戦2敗。日本が負けてもおかしくない条件はそろっていたのだ。

自分自身もそうなのだが、「おめでとう」の言葉とともに今回のU―23日本代表に素直に謝らなければいけない人は多いのではないだろうか。「ごめんなさい。あなたたちの実力を見誤っていました」と。攻め手も少ないし、面白みにも欠ける。ただこのチームは見た目以上に勝負強い。イタリア的なしたたかさをいつの間にか身に付けていたのだ。

近年、アンダーカテゴリーの日本代表を見ていると、同じ場面を繰り返している気がする。それは、圧倒的にボールを保持しながらもカウンターを決められ敗れる姿だ。自分たちが支配していた試合でリードされたときのショックは大きく、最終的に「勝負」を諦めたのではという試合を何度となく目撃した。

しかし、今回のチームはゲームコントロールのベースを守備においている。初めから攻め込まれる時間帯があることを想定していれば、押し込まれてもそこまで慌てない。いくら相手にボールを支配されようとも、「失点さえしなければいいんでしょう」という開き直りがあれば、勝負に徹することができる。それがイラン戦とイラク戦における冷静なゲーム運びにつながったのではないだろうか。U―23日本代表の選手たちは、周囲が思う以上に肝が据わっていた。そして、試合を重ねるごとにそのたくましさを増していった。

今回、男子サッカー五輪予選は20年ぶりに1カ国での集中開催となった。W杯予選も含めて最近では最も難しいと感じた大会で5戦全勝して五輪切符を獲得した彼らは日本を旅立つ前、大きな期待を抱かれたチームではなかった。五輪への連続出場を途切れさせる恐れすらあるとささやかれていた。だが、重圧に対する耐性を持った勝負強いチームであることを見事に証明した。

イラク戦前半26分の先制点。鈴木武蔵の突破から久保裕也がスライディングシュートで決めた得点は素晴らしかった。さらに、後半ロスタイムには原川力が弾丸ハーフボレー。劇的な決勝点に、深夜にもかかわらず思わず叫び声を上げた人も多いに違いない。そして、イラク戦でゴールを挙げた久保と原川が、山口市にある鴻南中の同級生というのも出来過ぎた話だ。関わった先生や友人は、さぞ誇らしいことだろう。

それにしても、今大会は手倉森誠監督の采配が恐ろしいほどにさえた。起用した選手が、面白いようにゴールを決めたのだ。手倉森監督は「僕自身が彼らの可能性を信じていた」と語ったが、チームというものは策がはまって勝利という結果がついてくればより強固な集団へと進化する。

ただ、リオに乗り込むチームはさらなる進化を遂げることが必要だろう。ベースの“我慢できる"守備はもちろんだが、今回はその実力を発揮したとはいえない南野拓実をはじめとする攻撃陣にてこ入れをしなければ、本番の五輪で結果を残すことは難しい。

準決勝のイラク戦までに日本が奪ったゴールは12で、その得点者は9人に及ぶ。この「どこからでも点を取れる」ことは強みだ。しかし、弱点にもなり得る。「絶対的な切り札がない」ということになりかねないからだ。やはり、チームには本物の「エース」と呼ばれる存在が必要だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。