2013年、プロ野球で偉大な記録が生まれた。ヤクルトのバレンティンがシーズン60本塁打を放ち、1964年の王(巨人)、2001年のローズ(近鉄)、02年のカブレラ(西武)がマークした年間55本のシーズン最多本塁打記録を49年ぶりに塗り替えたのだ。

この快挙は当然、大きなニュースとなったが、同時に全球団が使用する「統一球」が「飛びやすい」ものに仕様変更されていたことの是非についての議論がファンの間でわき起こった。実際に、統一球が導入された11年の本塁打数は939本だったのに対し、13年シーズンは約4割増、本数にして372も多い1311本。「本塁打は野球の華」と言うが、競技のエンターテインメント性が道具の品質をいかにコントロールするかに大きく影響されることを如実に表した一件だった。

じつは今年、F1でも野球のボールにあたる重要なルール変更がある。使えるタイヤの種類が増えるのだ。これまでは、タイヤを供給するピレリが指定する2種類を使っていればよかった。各チームは、レースが開催されるサーキットの特性やマシンにより合ったタイヤを多く使えるよう、支給されたタイヤの残数を考えながら週末を戦っていた。

新しい規定は以下の通りとなる。GPごとに使用できるタイヤは13セット。この中から、ピレリがレース用2種類と、予選Q3でのみ使う1種類の計3セットを指定する。残りの10セットは各チームが3種類あるタイヤから自由に選ぶことになる。決勝では2種類の使用が義務付けられるが、うち1つはピレリが指定したものでなければならない。

例えば、タイヤが柔らかい順にA、B、Cとあったとする。保守的な戦略を採用するのならばAを4セット、Bを3セット、Cを3セット選び、レースの状況に合わせて2種類のタイヤを選ぶだろう。一方、自由に選択できるのでこんな極端な選択も可能だ。ピレリが予選Q3用としてA、レース用にBとCを指定したと仮定する。あるチームが自らのマシンに最適と判断して、10セットすべてを最も柔らかいAにする。そして、レースではピレリ指定のBを1セットだけ使って、残りは―短い間隔でピットストップを繰り返さなければならないが―Aで走りきる。ギャンブルともいえるこの戦略が当たれば、思わぬチームが好成績を残す番狂わせが見られるかも知らない。逆に、強豪であってもタイヤ選択を見誤れば無残な結果に終わることも十分にあり得ることになる。レースの面白みは確実に増すはずだ。

中でも、入賞圏内を争う中堅チームにとってはギャンブルに挑む価値はある。まさに、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。あっと驚くレース展開が今年はあるかもしれない。(モータージャーナリスト・田口浩次)