27歳の誕生日を祝うバースデーケーキを前に涙が止まらなかった。10月30日から11月1日まで仙台市で開催された卓球の女子ワールドカップ(W杯)での一幕。関係者の“サプライズ"な計らいに福原愛(ANA)は目を丸くして驚いたが、状況を飲み込むと満面の笑みもつかの間、押し寄せる悔しさを抑えることができなかった。

仙台は生まれてから10歳までを過ごした故郷だ。7年ぶりの凱旋となり、多くの友人が会場のゼビオアリーナ仙台に応援に駆けつけた。ひときわ大きな声援を受け、並々ならぬ意気込みを抱いていた。リオデジャネイロ五輪まで1年を切り「成長した姿を少しでも多くの人に見せたい」と言葉には力が込もった。

世界ランキング上位のため、10月31日の決勝トーナメントから登場した福原は1回戦でディナ・メシュレフ(エジプト)を4―1で難なく退けた。次の相手も格下のペトリサ・ソルヤ(ドイツ)で、開幕時に世界ランク2位の劉詩☆(雨カンムリに文の旧字体)(中国)との対戦が予想された準決勝が最初の山場だと思われた。予想通り2回戦もあっさりと3―0とした。だが、落とし穴が待っていた。

後がなくなり攻勢を強める相手に手を焼きつつも12―11とマッチポイントを迎えたが、攻めあぐねて第4ゲームを落とすと、守りに入り、あれよあれよという間に3ゲームを奪われて大逆転を喫してしまう。「頭が真っ白」。試合後、取材に応じる表情はうつろで「申し訳ない」と何度も口にした。前日の記者会見では、決勝が行われる11月1日の誕生日に向けての意気込みを問われ「誕生日に試合ができるように明日一日しっかりと頑張りたい」と謙虚に答えた本人が、まさかの結果に一番驚いている様子だった。

世界ランクが過去最高の4位となり、手応えを感じて迎えた大会だった。昨年末に痛めた腰も癒え、9月には五輪アジア予選の日本代表に決まって前に進むだけ。昨年5月から指導を受けるソウル、バルセロナ両五輪に出場した馬場(旧姓星野)美香コーチの下で確実に成長できていると実感し「美香先生に見ていただいてから、精神面、技術面、戦術面など全ての部分でレベルアップすることができている」と口調も頼もしかった。

つまずきの要因は、“対中国"を意識するあまり“対ヨーロッパ"を軽視していたことだと分析した。「中国選手と試合をするには、まずヨーロッパやほかの強い国の選手にしっかり勝たないといけない。パワー対策とかがまだまだ足りない」と足元を見つめ直すことになった。

リオの舞台まで残された時間は多くない。準優勝した石川佳純(全農)も決勝では劉詩☆(雨カンムリに文の旧字体)に0-4で完敗し、中国勢との力の差も改めて見せつけられた。「オリンピックではまたメダルを仙台に持って帰りたい」。閉会式では地元のファンに雪辱を誓ったが、そのための道は平たんではない。ロンドン五輪の「銀」に続く団体戦のメダルと悲願の個人戦のメダル獲得という大きな目標を掲げる日本の第一人者はこの敗戦をばねにさらなら飛躍を遂げられるか。

村形 勘樹(むらかた・かんじゅ)1983年生まれ。山形県出身。全国紙の広島勤務で警察や裁判所を3年担当。2012年に共同通信に入社し、札幌支社を経て15年5月に運動部へ。現在は重量挙げやセーリングなどのアマチュア競技を担当している。