「日本人が緻密な国民性である」というのは、サッカーに関しては当てはまらない。世界で戦うために細部まで突き詰めて、結果を残したラグビーに比べると、なんと大ざっぱなことか。素人でも、ある視点を持って試合を見詰めると気づく問題点。それが試合の結果を最も左右する、ゴールキーパー(GK)というポジションにある。だが、悪いのは選手ではない。その事実に気づいていない、問題意識の低いGKコーチだ。

Jリーグに所属する多くのGKのプレーを見ていると、なぜこれがまかり通っているのかと不思議でならないことがある。シュートに反応する前段階での予備動作があまりにも大きいのだ。両足でステップを踏む際に、無駄に上へ跳んでいるだけでなく、そのタイミングもずれている。結果、GKの両足が空中にある間に、シュートを打たれて失点する。これは明らかにミスだ。

シュートが放たれる瞬間、GKは左右両足に体重を均等に掛けて、どのような球筋に対しても反応できる構えを取らなければいけない。シュート直前に軽いジャンプ動作から両足で着地して準備体勢を作るのはそのためなのだ。これは、ハーフナー・ディドさんに教わった欧州型のゴールキーピング法。ディドさんはJリーグ開幕から名古屋などで活躍、引退後は日本代表のGKコーチも務めた名キーパーだ。日本代表にも選ばれたハーフナー・マイクの父親としても知られる。

なるほど。この予備動作をすると大腿(だいたい)筋を始めとした筋肉が刺激を受け、次の反応が早くなる。現在ではこの守備法は当たり前となり、多くのGKが取り入れている。ただ、状況も考えずにジャンプするGKが多過ぎることが問題なのだ。GKの最大の役割はシュートを止めること。宙に浮いていては何もできない。空中で自在に動けるのは、鳥かスーパーマンだけだ。

GKというポジションを始めると、最初に必ず教え込まれる二つの項目がある。一つ目は「ニアを消す」ポジショニング。シュートをファーに打たせることで、DFが戻るためのコンマ何秒の時間が稼げるからだ。そして二つ目は、相手がシュートを打つ瞬間は「動かない」。GKの重心が移動している途中で逆を取られたら、もうノーチャンスなのだ。

近代サッカーが誕生からおよそ150年。その歴史で築かれてきたこれらのゴールキーピング法は、恐らく普遍の理論だろう。ところが、Jリーグではこのセオリーを無視。驚くほどニアサイドを破られるポジショニングや、ジャンプをした瞬間を狙われ反応できないGKを見ることが多過ぎる。

J1第2ステージの大一番となった第16節のG大阪―広島。テレビでは広島に先制点をもたらしたドウグラスのFKを「完璧なシュート」といっていたが、映像を見直してほしい。G大阪のGK東口順昭が予備動作として両足ジャンプしたのは、ドウグラスがボールを蹴った後。反応が遅れているのだ。確かに、シュートは素晴らしいコースに飛んだ。ただ、正しいタイミングで反応していれば、セーブの可能性はゼロではなかっただろう。

日本代表の東口にして、これである。同じような「ミスには見えないGKのミス」が生む失点は驚くほど多い。同じ第16節の甲府も4失点のうち3点がそうだった。シュートの瞬間、GKの両足はいずれも宙にあった。その前の第15節。湘南と清水も「空飛ぶGK」によって失点を喫している。予備動作自体は悪いとは思わない。ただ、タイミングを合わせられないのなら動かない方が無難だ。

なぜ、日本のGKはあそこまで動くのか。欧州では名手といわれるGKが動くことは少ない。そんな中でドイツのノイアーは例外なのだが、それでもシュートの瞬間に空中に跳び上がっていることなどない。音楽でいえば絶対音感を持っているように、予備動作を相手のシュートタイミングにぴたりと当てはめてくる。残念ながら日本には、そのリズムを完璧に合わせられるGKは存在しない。

一方で、そんなGKの動きを見透かしているフィールドプレーヤーがJリーグにいる。これは企業秘密なので名前を明かせないが、経験豊かなその選手によると「日本のGKは必ずといっていいほど余計な動きをする」というのだ。狙っているのは、重心の逆をついてボールを送り込むこと。そうすれば、弱いボールでも簡単にゴールは奪えるという。

日本のGKを見ていると、青森の夏を彩るねぶた祭の踊り子である「跳人(はねと)」を思い出す。だが、サッカーはお祭りではなく、競技だ。それを踏まえれば、日本には猛省しなければならない指導者が数多くいるはずだ。映像を見れば素人でも気づく、GKの間違った動き。いつまでも改善されないのはやはり、GKコーチの怠慢だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。